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医師の勤務環境を改善するためには、各医療機関における医師の働き方改革だけでは限界があり、医療機関どうしの機能分担を見直す地域医療構想の推進とともに、医師の地域間・診療科間での偏在の是正が必要です。
医師の偏在対策については、8月30日に厚生労働省が医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案を公表し、2024年末までに総合的な対策のパッケージを策定することとされました。
今回は、9月5日の社会保障審議会医療部会の資料をもとに、医師の偏在是正はどこまで進み、これからどのように進められるのか、そのポイントをご説明します。
医師の偏在是正はどこまで進んでいるのか?
1 医師の遍在の現状
⑴ 医師全体の需給推計
まず、医師全体の需給推計についてですが、労働時間を週60時間程度に制限する等の仮
定(年間960時間の時間外・休日労働に相当)をおくと、2023年(令和5年)の医学部入学
者が医師となると想定される2029年(令和11年)頃に均衡すると推計されています。
⑵ 医師の地域間の偏在
医師の地域間の偏在について、かつては人口10万人対医師数で表されていましたが、医
師の偏在の状況を十分に反映した指標となっていないことから、現在では、三次医療圏・
二次医療圏ごとに、医師の偏在の状況を全国ベースで客観的に示すために、地域ごとの医
療ニーズや人口構成、医師の性年齢構成等を踏まえた医師遍在指標の算定式を国が提示し
ています。
そして、全国の335二次医療圏の医師遍在指標の値を一律に比較し、上位の一定の割合
を医師多数区域、下位の一定の割合を医師少数区域とする基準を国が提示し、それに基づ
き都道府県が設定しています。
下の表が、令和6年1月に公表された都道府県別および二次医療圏別の医師遍在指標で
す。例えば、埼玉県を見ると、県全体としては下位3分の1に入っていますが、二次医療圏
別では、さいたま医療圏は上位3分の1に入っている一方、利根・北部・秩父医療圏は下位
3分の1に入っていますので、二次医療圏ごとに実態を押さえる必要がありそうです。
⑶ 医師の診療科間の偏在
下のグラフは、診療科別の医師数の推移について、平成20年を1.0とした場合の指数を示
したものですが、特に時間外・休日労働時間数が長く、勤務環境が厳しい外科の医師数が
ほとんど増えていないのが気になるところです。
ちなみに、この外科には、外科、呼吸器外科、心臓血管外科、乳腺外科、気管食道外
科、消化器外科、肛門外科、小児外科が含まれます。
診療所において主に「皮膚科」「美容外科」「形成外科」に従事する医師は、医師全体に比べて、30代以下の医師が占める割合が多くなっています。特に、「美容外科」については、近年、20代及び30代の医師数の占める割合が増加しています。
2 医師の偏在を是正するためのこれまでの取組
⑴ 医師養成課程における取組
〇 中長期的な観点から、医師の需要・供給推計に基づき、全国の医師養成数を検討
〇 地域枠(特定の地域や診療科で診療を行うことを条件とした選抜枠)の医学部に
おける活用方針を検討
〇 全国の研修希望者に対する募集定員の倍率を縮小するとともに、都道府県別に、
臨床研修医の募集定員上限数を設定
〇 その際、都市部や複数医学部を有する地域について、上限数を圧縮するとともに、
医師少数地域に配慮した定員設定を行い、地域偏在を是正
〇 日本専門医機構において、将来の必要医師数の推計を踏まえた都道府県別・診療科
別の専攻医の採用上限数(シーリング)を設定することで、地域・診療科偏在を是正
(産科等の特に確保が必要な診療科や、地域枠医師等についてはシーリング対象外)
⑵ 各都道府県の取組
〇 医師偏在指標により医師偏在の状況を把握
計画期間の終了時点で確保すべき目標医師数を設定
<具体的な施策>
●大学と連携した地域枠の設定
●地域医療対策協議会・地域医療支援センター
・ 地域医療対策協議会は、医師確保対策の方針(医師養成、医師の派
遣調整等)について協議
・ 地域医療支援センターは、地域医療対策協議会の協議結果に基づき、
医師確保対策の事務(医師派遣事務、派遣される医師のキャリア支
援・負担軽減、勤務環境改善支援センターとの連携等)を実施
●キャリア形成プログラム(地域枠医師等)
「医師不足地域の医師確保」と「派遣される医師の能力開発・向上」
の両立を目的としたプログラム
●認定医師制度の活用
・ 医師少数区域等に一定期間勤務した医師を厚労大臣が認定する制度を活用し、
医師不足地域の医師を確保
⑶ 医師の働き方改革
地域の医療を支えている勤務医が、安心して働き続けられる環境を整備することが重要
であることから、都道府県ごとに設置された医療勤務環境改善支援センター等による医療
機関への支援を通じて、適切な労務管理や労働時間短縮などの医師の働き方改革を推進。
具体的には、
〇 医療機関における医師労働時間短縮計画の作成や追加的健康確保措置等を通じて、
労働時間短縮及び健康確保を行う
〇 出産・育児・介護などのライフイベントを経験する医師が、仕事と家庭を両立できる
よう勤務環境の改善を推進
⑷ 医師の偏在の改善状況
35歳未満の医療施設従事医師数の推移を平成24年を100としてみると下のグラフのとお
りですが、平成26年の前後で比較すると、医師少数都道府県の若手の医師数は、医師多数
都道府県と比較し伸びており、若手の医師については地域遍在が縮小してきているようで
すが、まだ十分ではありません。
また、医師の診療科間の偏在については、目立った改善状況は報告されていません。
3 医師の偏在を是正するためのこれからの取組
令和6年6月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024(いわゆる骨太の
方針)」においては、次のように記載されています。
「医師の地域間、診療科間、病院・診療所間の偏在の是正を図るため、医師確保計画を深化させるとともに、医師養成課程での地域枠の活用、大学病院からの医師の派遣、総合的な診療能力を有する医師の育成、リカレント教育の実施等の必要な人材を確保するための取組、経済的インセンティブによる偏在是正、医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の大幅な拡大等の規制的手法を組み合わせた取組の実施など、総合的な対策のパッケージを2024年末までに策定する。」
医師偏在是正に向けた総合的な対策のパッケージについては、厚生労働省が8月30日に次のような骨子案を公表しましたが、その具体的な内容は、今後、厚生労働省の検討会(「新たな地域医療構想等に関する検討会」および「医師養成課程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」)において、2024年末までに検討が進められることになっています。
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