今週のコラム第139号「医師の勤務間インターバルと代償休息をわかりやすく解説」(2024年7月2日号)

医師の勤務間インターバルと代償休息は、特例水準(BC水準)の医師について義務となっており、本年度の保健所による立入検査(医療法第25条第1項)においてその実施状況が確認されることになっています。

そこで、今回は、医師の勤務間インターバルと代償休息について、厚生労働省から出されているQ&Aを含めて、わかりやすく解説してみたいと思います。

 

医師の勤務間インターバルと代償休息

をわかりやすく解説

 

1.勤務間インターバル

 

1⃣ 基本ルール①(24時間で9時間の継続した休息)

 ⑴ 通常の日勤の場合

 始業(※)から 24 時間以内9時間継続した休息時間を確保をする必要があります。

 ※連続勤務時間制限の起点となる「始業」は、勤務シフト等で予定されていた業務の開始時

  となります。

【関連Q&A】

Q 連続勤務時間制限となる 15 時間及び 28 時間中 (C 1 水準を適用する臨床研修医については

 24 時間) に 、労基法で定められる休憩時間は含まれるのでしょうか 。

A 連続勤務時間は労基法に定める休憩時間を含みます 。

 

 ⑵ 宿日直許可のある宿日直の場合

 始業から24 時間以内9時間以上宿日直中許可のある宿日直に従事する場合、

インターバルが確保されているとみなされます。

【関連Q&A】

Q 宿日直許可のある宿日直6時間と休息時間3時間を足して、連続した9時間の勤務間インターバルを確保したとすることはできるのでしょうか 。
A 宿日直許可のある宿日直に従事した時間を 「 連続した9時間の勤務間インターバル 」と扱うことができるのは 、 9時間以上の連続した宿日直許可のある宿日直を行った場合のみで、9時間未満の宿日直許可のある宿日直と3時間の休息時間を足して連続した9時間の勤務間インターバルを確保したこととすることはできません(当該時間とは別に9時間の休息時間を確保しなければなりません) 。

〈適用例1: 1 日に短期間の休息と労働の繰り返しが予定されている場合〉

◆始業から24 時間以内で9時間の継続した休息を確保する場合の適用例◆

〈適用例2: 主たる勤務先で勤務後、副業・兼業先の宿直に従事する場合〉

◆始業から24時間以内で9時間の継続した休息を確保する場合の適用例◆

 ※副業・兼業先と調整して、勤務間インターバルを確保できるよう勤務シフトを組む必要が

  あります。

2⃣ 基本ルール②(46時間以内に18時間の継続した休息)

宿日直許可のない宿日直に従事する場合

 始業から46 時間以内18 時間継続した休息を確保する必要があります。

【関連Q&A】

Q 24 時間以内に継続した9時間以上の勤務間インターバルが確保できる勤務シフトを組んでいますが、 業務の都合で9時間の勤務間インターバルが確保できなかったため、 一時的に 46 時間以内に18 時間の勤務間インターバルに変更しようと思いますが 、 そのような運用はできるのでしょうか 。

A 勤務間インターバルについては、業務の開始から24時間を経過するまでに9時間の継続した休息時間を確保することが基本であり、医療法上、業務の開始から46時間を経過するまでに18 時間の継続した休息時間を確保することにより勤務間インターバルを確保できるのは、宿日直許可のない宿日直勤務に従事する場合に限られています

 このため、宿日直許可のない宿日直勤務(※)ではない勤務については、業務の開始から 24 時間以内に9時間の継続した休息時間が必要となります 。

 なお、代償休息が発生することを前提とした勤務シフト等を組むことは、 原則として認められません。

 ここでいう「宿日直」とは、医療法第 16 条に規定する義務としての宿日直を指します。

  これは主に病院の入院患者の病状急変に対応する体制確保を求めるものですので、通常の勤務時間と

  同態様の労働となる夜勤はここには含まれません

 

【補足】 医療機関において、夜間帯の労働を所定労働時間の「 夜勤 」と整理している場合において

 も、 医療機関内の規則等における夜勤業務の明確化により、通常の日勤業務よりも労働密度が低い業

 務であることが確認できる場合には、「業務の開始から46時間以内に 18 時間の継続した休息時間 」 の

 ルールが適用可能です 。

  通常の日中の勤務時間との区別にあたっては、 例えば夜勤業務において 、

 ・急患対応がない場合は仮眠室での休憩が可能であること

 ・通常の休憩時間に加え、労働密度が低くなる深夜、早朝等に休憩時間を別途確保すること

 ・予定された手術の対応はなく、緊急手術のみ対応すること(夜勤中に実施すべき業務の列挙、通常の

  日勤業務よりは労働密度が異なることが説明できること)

 等が院内規則等に明記され、かつ、当該規則が医師を含む職員全体に周知されている場合には、「 通常

 の日勤業務よりも労働密度が低い業務」になるものと考えられます 。

 

〈適用例1:同一医療機関で宿日直許可がある時間とない時間が混在する場合(例:準夜帯が許可なし、深夜帯が許可あり)であって、宿日直許可のある宿日直が9時間未満である場合〉

◆始業から46時間以内で18時間の継続した休息を確保する場合の適用例◆

【関連Q&A】

Q 宿日直許可のない宿日直に加え、宿日直許可のある宿日直にも従事させる場合、「業務の開始から46時間以内に18時間の継続した休息時間28時間の連続した勤務時間制限 )」 のルールを適用することはできるのでしょうか 。

A 「 業務の開始から 46 時間以内に 18 時間の 継続 した休息時間 28 時間の連続した勤務時間制限 )」

のルールは 、宿日直許可のない宿日直に従事させる場合に適用 することができます 。

 そのため、宿日直許可のない宿日直に従事させる場合であれば、連続勤務時間の一部に9時間未満の

宿日直許可のある宿日直に従事させることがあっても、「 業務の開始から46 時間以内に18 時間の継続

した休息時間28時間の連続した勤務時間制限 )」 のルールを適用することが可能です。

 なお、18時間の勤務間インターバルの中には「宿日直許可のある宿日直」を含めることはできません。

 他方で、宿日直許可のない宿日直に従事させる場合であっても、24 時間以内に9時間以上の宿日直許

可のある宿日直に従事させるのであれば、「始業から24時間以内に9時間の継続した休息時間 15 時間

の連続勤務時間制限 )」を適用することを想定しています。

(例えば、9 時を始業とする医師が、21 時から宿直につく場合で、21時から 23時まで宿日直許可のない

宿直に従事させるが、23時から翌日8時までは宿日直許可のある宿直に従事させる場合等)

【関連Q&A】

Q 宿日直許可のない宿日直に従事し、始業から46時間で18時間の継続した休息を確保する予定をたてる場合、18時間の継続した休息時間に宿日直許可のある宿日直を含めることはできますか。

A 宿日直許可のある宿日直に従事した時間を「継続した9時間の勤務間インターバル」と扱うことができるのは、始業から24時間で9時間の勤務間インターバルを確保する場合のみとなります。

 そのため、46時間で18時間の勤務間インターバルにおいて休息を確保する場合には、継続した18時間の休息に宿日直許可のある宿日直を含めることはできず、18時間の継続した休息時間が確保できるよう、シフト計画を作成する必要があります。

〈適用例1の補足 (24 時間で9時間の継続した休息が確保できる場合)〉

◆適用例1の場合で24 時間で9時間の継続した休息が確保できる場合◆

 適用例1:宿日直許可がある時間とない時間が混在する場合 (例:準夜帯が許可なし、深夜帯が許可あり)であって、宿日直許可のある宿日直が9時間未満である場合

〈適用例2: 主たる勤務先で勤務後、副業・兼業先の宿直に従事する場合〉

◆始業から46 時間以内で 18 時間の継続した休息を確保する場合の適用例◆

 ※副業・兼業先と調整して、勤務間インターバルを確保できるよう勤務シフトを組む必要

  があります。

2.代償休息

 

1⃣ 代償休息付与の基本ルール

 • 予定された9時間又は18 時間の継続した休息時間中にやむを得ない理由により発生した

  労働に従事した場合、医療機関の管理者は、その労働時間に相当する時間分代償休息

  として付与する必要があります 。

 • 対象となる労働時間が発生した日の属する月翌月末までできるだけ早期に確保する

  必要があります 。

代償休息付与に関する留意事項 ~疲労回復に効果的な付与の観点から

代償休息の付与方法については、対象となった時間数について、所定労働時間中における時間休の取得又は勤務間インターバルの延長のいずれかによることとするが、 疲労回復に効果的な休息付与の観点から以下のような点に留意する。

・ 勤務間インターバルの延長は、睡眠の量と質の向上につながる

・ 代償休息を生じさせる勤務の発生後、できる限り早く付与する

・ オンコールからの解放、シフト制の厳格化等の配慮により、仕事から切り離された状況を設定する

また、代償休息は予定されていた休日以外で付与することが望ましく、特に面接指導の結果によって個別

に必要性が認められる場合には、予定されていた休日以外に付与する

 

◆急患の対応により1時間の労働に従事し、9時間の勤務間インターバルを確保できなかった場合◆

 発生する1時間の代償休息について、翌月末までに付与する必要があります。

【関連Q&A】

Q 代償休息は年次有給休暇で付与しても良いのでしょうか 。

A 代償休息の付与は 、 所定労働時間中における時間休の取得又は勤務間インターバル幅の延長のいずれかによることとしています 。 疲労回復に効果的な休息付与の観点等も踏まえ 、 医療機関の就業規則等において整理していただくことが望ましいと考えます 。

なお、年次有給休暇は勤務医が取得時季を決めるものですので 、 その意に反して付与することはできません 。 その点にはご注意ください 。

 

Q 代償休息については有給で付与する必要があるのでしょうか 。

A 代償休息については 、 必ずしも有給での付与を義務付けるものではありません 。 代償休息の取扱いについては 、労使で話合いを行い 、 院内ルールを明確化しておくことが望ましいと考えます 。

なお、代償休息の前提となる勤務間インターバル中の労働が時間外や深夜帯に発生している場合は 、

代償休息の付与の方法(休日に付与するか、平日所定労働時間(勤務日) に付与するか)にかかわらず 

時間外労働や深夜労働に対する割増賃金を支払う必要があります 。

 

Q  代償休息は「分」単位で付与する必要があるのでしょうか。1時間未満切り捨てといった取扱いは出来るのでしょうか。

A 付与方法としては 、 分単位で付与いただくことも可能ですが 、 例えば 、 15 分や 30 分 、 1時間単位で切り上げて付与する等 、 効果的な代償休息付与や事務の簡便性に資すると考えられる方法で付与方法を検討いただくことも可能です 。

ただし、実際に労働をさせた時間を下回る方法で付与することは認められません

なお、こうした代償休息の付与方法については、就業規則等の適切な方法で定めることが求められます。

 

◆急患の対応により1時間の労働に従事したが、9時間の勤務間インターバルを確保できている場合◆

 9時間の継続した休息時間を超える分の時間については、代償休息付与の義務は生じません。

【関連Q&A】

Q 事前のシフトでは、勤務後、20時から翌日8時までのインターバルを予定(12時間)していたが、23時から翌日1時まで緊急の患者対応を行った。この場合のインターバルと、代償休息の考え方はどうなりますか?

A やむを得ない理由により発生した労働に従事した時間までに勤務間インターバルとして継続した9時間の休息時間が取れていない場合は、代償休息で対応する必要があります。

上記の事例では、20時から勤務間インターバルが予定されていたとすると、予定されている勤務時間は翌日の業務開始までに9時間以上の休息時間が確保されていますが、深夜の呼出により2時間の実働が発生したため、9時間の継続した休息時間が確保できていません

そのため、管理者には翌月末までに2時間を代償休息として確保する努力義務又は義務[A水準医師は努力義務、B・C水準医師は義務]が発生します。

一方、その後に3時間分の休息時間(5時~8時)が確保できていることから、その時間を代償休息に充てたと整理することで、別途代償休息を与える必要はありません

 

2⃣ 宿日直許可のある宿日直中に発生した代償休息の付与ルール

 • 宿日直許可のある宿日直に継続して9時間以上従事する場合は、9時間の継続した休息

  時間が確保されたものとみなします 。

 • この場合に通常の勤務時間と同態様の労働が発生し十分な睡眠が確保できなかった場合

  は、管理者は、当該労働時間に相当する時間の休息を事後的に付与する配慮義務(※)

  を負います 。

 ※当該宿日直中に発生した労働の負担の程度に応じ、休暇の取得の呼びかけ等の休息時間を

  確保するための何らかの取組を行う義務が発生する。

  (必ずしも結果として休息時間の確保そのものが求められるものではありません。

 

3⃣ 例外:15 時間を超える業務に従事する場合の勤務間インターバルについて

 ・ 勤務間インターバルは、代償休息を付与することを前提とした運用は原則として認めら

  れません 。

  (例:継続した休息を8 時間とする勤務シフトを組み、事後的に 1 時間分の代償休息を

  与える 等)

 ・ 一方、長時間の手術(必要な術後の対応を含む。)により、個人が連続して15 時間を

  超える対応が必要な業務が予定されている場合については、代償休息の付与を前提とした

  運用が認められます。

 ・ ただし、医師の健康確保の観点から、当該代償休息については、翌月の月末までの間で

  はなく、 当該業務の終了後すぐ(次の業務開始まで)に付与する必要があります。

4⃣ 勤務間インターバルの基本ルール(C1水準が適用される臨床研修医)

 始業から48時間以内24 時間継続した休息時間(24 時間の連続勤務時間制限)

 

C ー1水準が適用される臨床研修医の代償休息のルール◆

 ・ C ー1水準が適用されている臨床研修医については、代償休息が発生しないように勤務間

  インターバルの確保を徹底することが原則です。

 ・ 勤務間インターバル中に臨床研修の機会を確保するための緊急業務に従事させ、代償休

  息を付与するためには下記の要件を満たすことが必要となります。

 

要件

・ 臨床研修における必要性から オンコール 又は 宿日直許可のある宿日直への従事 が必要な場合に

 限ること 。

・ 臨床研修医の 募集時に代償休息を付与する形式での研修を実施する旨を明示 すること 。

・ 代償休息は、計画的な研修という観点から、通常は当該診療科の研修期間内で処理すべきであり、

 代償休息の付与期限は原則として

 ⑴ 勤務間インターバル終了後労働した日の属する診療科毎の研修期間の末日 、 又は 、

 ⑵ 勤務間インターバル終了後労働した日の属する月の翌月末日 、 のいずれか早い日まで とし 、

 ⑴の方が早いものの、やむを得ず⑴までに付与できない場合は、例外的に ⑵ までとすること 。

 

 ※医師が宿日直許可のある宿日直中にやむを得ない理由で業務に従事した場合 、管理者は代償休息を

  与えるよう配慮しなければなりませんが、

  C 1 水準が適用される臨床研修医については代償休息の付与は義務 となります。

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