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医師の働き方改革を進める上で、タスクシフト・シェアが大きな課題となっていますが、どのような手順で進めたらよいか、医師事務作業補助者のキャリアップをどうしたらよいかなどについて、悩まれている病院も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は、院内のタスクシェア・シフト推進委員会を中心にタスクシフト・シェアを進めるとともに、医師事務作業補助者のキャリアチェンジのための研修の実施や、正職員への雇用も行っている事例をご紹介します。
【タスクシェア・シフト推進委員会を中心とした働き方改革の推進】
(公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院(大阪府大阪市))
※ 685床 職員 1,599名(医師 304名、看護師 717名 他) 急性期
取組前の状況
【医師の長時間労働】
• 2006年にNPO法人イージェイネットより、「働きやすい病院評価・認証」を日本で3番目
に取得する等、勤務環境の改善には早くから取り組んできた。しかしながら、2017年の再認
証の際に、医師の長時間労働と看護師の高い離職率を指摘される等、勤務環境改善に向けて
更に取組を推進する必要があった。
• 2021年4月1日から2022年3月31日の36協定は、基本は1日5時間、1か月45時間、1年360
時間、医師については1か月90時間、1年720時間が特例として認められる一般的なものであ
ったが、時間外勤務が月80時間を超える医師が複数おり、医師の働き方改革に向け、医師の
負担を軽減する更なる取組が必要であった。
• 医療従事者向け情報サイトm3.comのアンケートにて、「医師が働きたいと思う病院」全
国11位(2021年)と好評価を受けていることもあり、優秀な医師の確保や医療品質の向上に
つなげるため、働き方改革をより一層推進する必要があった。
• これらの状況の中、法規制をきっかけとして委員会を立ち上げ、働き方改革の取組を推進
した。
取組の内容
【勤務時間・時間外業務の明確化】
勤怠管理システム導入と時間外業務の定義を行い、勤務実態を適正に把握した。
• 2002年より、出入口でカードをかざして打刻する機器を設置した。
• 長時間労働の短縮に向けて、まずは何が時間外業務かを明確化した。その上で、時間外業
務が多い診療科を把握し、効果的な時間外業務の縮減策を検討した。
勤怠管理システムの運用の適正化を行った。
• 勤怠管理システムを導入したものの運用はルーズだったため、「原則、申請は翌日中にす
ること」、「残務の事由を具体的に記載すること」といった適正な運用となる工夫・改善を
重ねていった。
• 厳しい運用ではあるが、病院長が決定した方針として周知しており、反発は起きていな
い。
• 時間外業務を行った際に必要な記載方法について、毎月、人事から発信している。
• 理由の未記載・時間外業務に該当しない業務を理由として記載等の場合は、所属長や本人
に連絡をする。
• 時間外に診察した場合は患者IDを入力することとしており、複数のIDを記載することもあ
る。回診等の場合は代表の患者IDのみの記入でよいとしている。
【推進委員会を中心としたタスク・シフト/シェアの推進】
委員会を発足し、タスク・シフト/シェアを推進すると同時に、タスクをなくすことが可能な
業務がないか検討した。
• タスクシェア・シフト推進委員会を発足し、副院長2名、看護部長、薬剤部長、医療情報
部長、人事課長、医事課長、医療クラーク課2名をコアメンバーとし、医師4名、看護師3
名、コ・メディカル5名、事務3名がワーキングメンバーとして参画する体制とした。委員会
は2か月に1回実施している。
• 2020年6月に実施したアンケートで、厚生労働省が提示している全項目について、タス
ク・シフト/シェアの可否を検討し、同時にタスクをなくすことが可能な業務はないかを検討
した。
• この検討により、タスク・シフト/シェアされる側が業務負担増加にならない取組みとし
て、退院指導計画書の発行中止や患者問診等でのタブレットの活用を実施した。
➢ 患者にタブレットを渡すと、操作説明をする人員も必要となり、かえって手間がかかる
ため、看護師や薬剤師が患者と会話をしながら、医療者が回答を入力するようにしてい
る。
➢ 以前は紙で確認し、カルテに転記する必要があったが、タブレットへの入力内容はその
まま電子カルテに転記されるため、業務は大幅に削減された。看護師から、作業時間が
3分の2以下になったと高評価である。
【医師事務作業補助者の活用】
MCとSMCという2種類の医師事務作業補助者を採用している。
• MCは外来に配置している医師事務作業補助者である。外来は複数診療科ごとのブロックに
区分されており、MCはブロック内のすべての診療科をシフト制で担当する。これにより、
診療科を超えて業務を知ることができる。
• SMCは診療科に配置している医師事務作業補助者であり、外来業務以外に診断書やサマリ
ー、データ入力など診療内容をより理解したうえで事務作業補助を行っている。
• MCとSMCでは給与体系にも差をつけており、時給で500円程度の差がある。
MCからSMCにキャリアチェンジするための研修の実施や、正職員への雇用も行っている。
• 採用時は必ずMCでの採用となり、6カ月間はMCとして勤務する必要がある。その後、仕
事への姿勢や能力を見て、本人がSMCへのキャリアチェンジを希望すれば、通常業務と並行
して3カ月の研修を実施する。
➢ 研修では、電子カルテの操作、カルテの見方、診断書の書き方等の指導や、看護学
生が使用するような教材を用いて学習・テストを実施する。
➢ 研修の最後に、実際に配置する診療科の医師からの評価、人事課との面談を実施し、
SMCとして認定する。
➢ SMCができるべき業務内容のチェックリストを作成している。チェックリストでは、
業務態度について、①情熱、向上心、探求心、積極性、②サービス、ホスピタリティ、
③仕事への責任感、④変化への対応や柔軟性、技術・能力について、⑤PC操作、⑥医学
知識、⑦医事知識、⑧外来業務、⑨書類作成、⑩その他の各項目で、自己評価と評価者
2名による評価を実施する。
• リーダークラスのSMCを正社員に任用しており、現在までに5名の嘱託職員を正職員に雇
用転換してきた。
【薬剤部へのタスク・シフト】
薬剤説明、持参薬確認等、薬剤部へのタスク・シフトを積極的に推進している。
• 術前中止薬のプロトコルを各診療科と薬剤部で作成し、薬剤師が医師に代わり手術前に服
用を中止する薬剤や休薬期間の説明を文書を用いて行っている。これにより、術前の中止忘
れ等による手術の中止や延期が減少した。
• 入院時の持参薬確認について、以前は薬剤師が紙面で報告し医師が指示入力していたが、
病棟薬剤師が電子カルテに鑑別報告として入力することで、医師が直接引用することが可能
となり、持参薬指示入力時間の短縮が図れた。
疑義照会薬の代行オーダーでは、タイムリーな対応と医師の負担軽減等につながった。
• 従来は、病棟薬剤師が医師へ疑義照会を行い、医師が処方を修正していたが、医師が手術
中の場合等、すぐに修正できない場合があった。
• 薬剤師が疑義照会後、医師から口頭で同意を得られた場合には、薬剤師が処方修正するこ
とで、医師の負担軽減、薬剤部から病棟への薬の交付時間の短縮、患者への速やかな薬の交
付が実現できた。
【その他の取組】
医師間の業務整理及びタスク・シフト/シェア
• 主治医制の緩和とチーム主治医制への移行
意識醸成
• トップのコミットメント、院内通信の発行
子育て・家族介護等の環境の整備
• 院内保育園の整備、病児保育 • 短時間正職員制度 • 男性の育児休暇取得促進
取組の効果
【ICTの活用】
• 患者問診でタブレットを活用することにより、看護師から、作業時間が3分の2以下になっ
たと高評価である。
【医師事務作業補助者の活用】
• 医師事務作業補助者の活用により、以下のような効果を得られている。
‒ 外来時間の短縮(患者の待ち時間、医師の外来業務時間)
‒ 診断書など文書業務の負担軽減
‒ NCDなどの入力業務の負担軽減
【薬剤部へのタスク・シフト】
• 薬剤部は積極的にタスク・シフトを行っており、医師の負担軽減、薬剤部から病棟への薬
の交付時間の短縮、患者への速やかな薬の交付が実現できた。
今後の展望
• タスクリダクション
➢ 委員会での検討テーマとして、タスク・シフト/シェアだけでなく、タスクそのものを
減らすことを検討している。具体的には、iPadの問診への活用による医療従事者の負担
軽減、問診内容を自動的に電子カルテに取り込む仕組みの構築による紙書類管理の撤廃
などを検討中である。
• DXの推進
➢ DXの推進は検討しているが、コストとの兼合いという課題がある。
➢ バイタル測定器から測定結果のデータを電子カルテにデータ連携する仕組み等、他院
の見学等で研究を進めている。
• チーム主治医制
➢ 情報共有の課題があり、カルテの記載などの徹底が必要である。
〔「勤務環境改善に向けた好事例集(令和5年3月 令和4年度厚生労働省委託事業)」より〕
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