今週のコラム第120号「医師の働き方改革シリーズ第35回『多角的な取組による働きやすい職場の実現』」(2023年12月26日号)

医師の働き方改革を進めるうえで、子育てと医師としての仕事の両立は、大変難しい課題となっています。

今回は、子育てと仕事の両立支援、ICTの活用、職員専任カウンセラーの導入、医師のキャリア支援等多角的な取組によって、働きやすい職場を実現している事例をご紹介します。

 

【多角的な取組による働きやすい職場の実現】

(社団医療法人養生会 かしま病院(福島県いわき市))

※ 193床 職員数 319名(医師 25名、看護師 168名、他) 回復期

 

取組前の状況

【地域医療の状況】

 • いわき市の人口当たりの医師数は、全国平均が10万人当たり261人であるのに対し、160.

 4人と最低水準であり、タスク・シフトが必須である。

 • 開業医の相対比率が高く、50:50程度である。

 • 地域では超高齢社会が進んでおり、地域多機能病院(かしま病院等)の需要が増加してい

 る。救急要請数であれば、2008年度から2017年度にかけて約2倍へ増加した。一方で当院は

 二次救急の病院であるため、三次救急の他病院の負担を増やさず地域医療を支えたいという

 思いがあり、当院で可能な限り引き受けている。

 

【ICT活用の必要性】

 • 地域に根差した医療機関として、急性期~回復期の機能を担っており、退院後、在宅療養

 する患者への訪問診療も多く実施している。チーム制で訪問診療を実施しており、情報共有

 のためにも月1回夕方に開催する訪問診療カンファレンスへの出席は不可欠である。

 • 時短勤務により、訪問診療カンファレンスへの出席が難しい医師が存在し、さらに、読影

 を担当している放射線科医師が病院総合医として訪問診療も担うようになったことで、読影

 の時間の確保が困難になったため、ICTの活用を推進した。

 

取組の内容

【子育てと仕事の両立支援】

 子育てと医師としての仕事の両立のため、在宅勤務制度・短時間勤務制度を導入している。

 • 子育て中のフルタイムでの勤務は、肉体的負担が大きく、さらに子どもと一緒に過ごす時

 間の確保が困難であるという課題があり、2018年に在宅勤務制度・短時間勤務制度を導入し

 た。

 • 在宅研究日と合わせ、週2日の在宅勤務を実現した。

 • 在宅勤務を行わない日は、8:30~15:30の実働6時間の短時間勤務としている。

 • 在宅では、医学生や初期臨床研修医、総合診療専門医専攻医の院内研修、実習に際する資

 料作成、総合診療医の勉強会関連のスライド・資材づくり、院内外施設と連携のための情報

 交換等の業務を実施している。

 

【ICTの活用】

 時短勤務者がカンファレンスに参加できるよう、WEB会議システムを利用している。

 • 訪問診療カンファレンスは病院内の事務所にて対面で開催していたが、時短勤務者にとっ

 ては時間外での開催となるため、自宅等からでも参加できるよう、スマートフォン(zoo

 m)を利用してオンラインから参加できることとした。

 • スマートフォンは個人のものを使用し、アプリも無料のものを使用しているため、特に

 スト等は発生していない

 新型コロナウイルスへの対応として、一部オンライン診療を開始した。

 • 新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、対面での訪問が限定的であった時期には、患者

 1人につき、月2回程度の訪問のうち1回はタブレットもしくは電話によるオンライン診療

 切り替えていた。

 • オンライン診療の対象は、状態が落ち着いている方、高齢者施設の方等としており、患者

 側のタブレット等は施設側に用意を依頼している。個人宅については個別に相談してオンラ

 イン診療の対象とするかどうかを判断している。

 • オンライン診療の導入・実施についても、特にコストは発生していない

 時短勤務者においても無理なく卒後教育を受けることができるよう、オンラインで参加可能な研修を開催している。

  福島県立医科大学地域・家庭医療学講座と協働して、すでに地域で医療を実践している医

 師向けの家庭医療生涯教育プログラム「家庭医療セミナー」を開催している。

 読影時間の確保のために、自宅から読影できる環境を整備した。

 • 放射線科の総合医において、読影時間の確保が困難になってきたことから、試験的に自宅

 で読影ができるよう環境整備(電子カルテの閲覧環境の整備、モニターの設置等)を行い、

 遠隔で画像診断を行っている。

 • 環境整備に要した費用は20万円弱(モニター、周辺器材等)である。基本的に、設置工事

 や高額な機材は院内予備機を使用して、労務費や新規購入での費用が大きく発生しないよう

 にした。上記の他には、6千円/月程度の回線使用料が発生している。

 

【育成・教育の取組】

 職員の資格取得支援、学生に対する奨学金貸与支援、地域の医療者育成協力を実施している。

 • 正看護師・認定看護師の養成のため、職員に対する資格取得支援として、奨学金制度の導

 入や、研修等に合わせた勤務・休日シフトの調整を行っている。職員への奨学金では授業料

 や入学金を実費支給している。

 • 医師・看護師・薬剤師等の11職種において、学生への奨学資金貸与制度を設けており、高

 校を卒業した医療系専門学校、大学入学者入学支度金として初年度に30万円、在学期間中月

 5万円を支給している。育成者の入職も実現している。

 • 初期研修医地域医療研修や医学生地域医療研修への協力、中高生医療体験セミナーの開

 催、小学生の就業体験等、地域の医療者育成にも協力している。

 

【職員専任カウンセラーの導入】

 職員専任カウンセラーを設置し、気軽に相談できる体制の整備とその周知を実施した。

 • 病院機能評価更新の際、職員のメンタルサポート不足との評価を受け、疲労蓄積度自己診

 断調査を開始した。本調査は現在も不定期で継続しており、結果を職員本人及び産業医へフ

 ィードバックしている。

 • 初回調査の結果、仕事による負担度が、非常に高い:5%、高い:14%、やや高い:24%と

 いう結果が出たため、対応策を検討し、気軽に相談できる体制づくりとして、職員専任カウ

 ンセラーを選任した。

 • カウンセラーは多様な手段による相談、講演、ハラスメント等への対応を実施している。

  1. ホットライン(電話相談窓口)を開設。毎月3日程度、1日4時間で実施しており、多様

   な勤務体系や職種に対応できるよう、日時を調整

  2. 電話・SNS・対面で、カウンセリングによる心理相談を実施

  3. 院内ハラスメント委員会メンバーとして、ハラスメント事案へ対応

  4. 新人職員研修時に、ストレスケアの必要性について講演

  5. 緊急事態や事故への心理的支援

  6. テーマ別の職員向け院内研修の講師を担当

  7. ニュースレターの作成と発信の管理

 • カウンセリングに馴染みがないことから、職員が相談することを躊躇してしまうという課

 があった。そこで、相談は電話申し込みで誰にも知られずに相談できること、仕事に関係

 ない内容でも相談できること等、安心して相談してもらえるような情報の発信を積極的に実

 した。

 

【医師のキャリア支援】

 子育て世代の医師のキャリア形成支援の一環として、チーム型診療体制の構築を推進している。

 • チーム型診療体制により、定時退勤の担保や休日夜間業務の回避ができており、子育て中

 の医師も病棟業務を担当可能となった。

 • チーム型診療体制の推進には、看護部からの問合せ先が曖昧になる、毎日チーム全員でカ

 ンファレンスの実施は不可能である、見落としによる確認漏れ等情報共有方法に問題があ

 、といった課題がある。

 病院総合医を含めたチーム医療を推進している。

 • 2008年から家庭医・総合診療医、2018年からは病院総合医の育成を開始した。

 • 地域多機能型病院では、主要疾患の管理アドバイスを専門家から受けつつ、病院総合医チ

 ームが実質的に管理を実施する。臓器別専門医は、アドバイスのみではなく、専門外の診療

 も対応する。

 • 旧専門医制度の専門医のセカンドキャリアとしての取得も推奨している。

 

【その他の取組】

 労務管理の方法

  休日夜間の非常勤医師活用

 他職種とのタスク・シフト/シェア

 • 医師事務作業補助者の活用

 • 臨床検査技師の病棟参画

 病棟マネジメント・業務マネジメント

  病状説明の原則時間内実施

 意識醸成

  時間単位での有給休暇取得

 子育て・家族介護等の環境の整備

  院内託児所の設置

 

取組の効果

【ICTの活用】

 • 時短勤務者であっても訪問診療カンファレンスに参加ができており、必要な情報共有や勉

 強の機会を得ている。

 • オンライン診療は、移動時間の短縮により負担軽減、業務効率化につながっている。

 • オンライン学習により卒後教育の機会が保証されており、職員の満足度や定着率の向上に

 つながっている。

 • 遠隔画像診断により、自宅で読影ができることで、より柔軟に時間が使えるようになった

 との評価が得られている。

 

【休暇制度・短時間勤務制度の利用】

 • 年次有給休暇の取得率は過去5年間にわたり75%以上と高水準を維持している。

 • 毎年数名が短時間勤務制度を利用しており、2022年には初めて男性医師が利用した。全

 職種でも男性の利用は初めてであった。

 

【救急受入率推移】

  上記のような働き方改革への成果を得つつも、効率的な病院運営により救急車受入率は右

 肩上がりとなっている。

  2022年度の救急車受入率は2017年度と比して倍増しており、地域の救急体制維持に貢献し

 ている。

 

〔「勤務環境改善に向けた好事例集(令和5年3月 令和4年度厚生労働省委託事業)」より〕

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