今週のコラム第113号「医師の働き方改革シリーズ第28回『患者・職員満足の向上に向けた、AIを用いた業務効率化と人材育成・チーム医療の推進』」(2023年10月24日号)

現在の増大する医療ニーズへの対応、新型コロナウイルス感染症対策、労働力不足などの外部環境の変化に対応するため、医療現場の職員は、自身の仕事に誇りを持ちつつも、忙しく頑張らざるを得ないことから、満足度が低いといった課題があるのではないでしょうか。

そこで、今回は、AIを用いた業務効率化と人材育成・チーム医療の推進により、職員満足度を向上させた事例をご紹介します。

 

【患者・職員満足の向上に向けた、AIを用いた業務効率化と人材育成・チーム医療の推進】

(国家公務員共済組合連合会 横須賀共済病院(神奈川県横須賀市))

※ 740床 職員1,297名(医師238名、看護師721名、他) 高度急性期

 

取組前の状況

【外部環境の変化への対応と院内外イメージの改善】

 • 他の医療機関と同様に、増大する医療ニーズへの対応、新型コロナウイルス感染症対策、

 労働力不足、患者との情報格差といった、様々な外部環境の変化を課題として認識してい

 た。

 • そのような外部環境の変化もあり、職員意識調査の結果等から、自身の仕事に誇りを持っ

 ている職員が多い一方、忙しく頑張らざるを得ない状況や、他部門の動きが見えにくいとい

 った意見等が見受けられていた。

 • 一方、地域からのイメージには、次のようなものも含まれていると認識しており、決して

 誇れるものばかりではなかった。

【院内の業務改善と人材定着等に向けた取組】

 • 医療現場にはルーチンワークが多く存在し、看護師や医師事務作業補助者へのタスク・シ

 フトを実施してきたが、人から人へのタスク・シフトには限界がある。そこで、患者満足度

 の向上も見据え、人からAIへのタスク・シフトの検討を開始した。

 • 2013年度の看護師の離職率は13.3%で、全国平均11.0%を上回っていた。これを年々改善

 し、2016年度には全国平均10.9%を下回る10.3%にまで改善することができた。しかしなが

 ら、他職種も含め、人材の定着と育成は重要な経営課題でもあると考え、個々人が能力をよ

 り発揮できる環境づくりを続ける必要性を感じていた。

 

【院外から認められる地域に根差した医療機関へ】

 • 2018年度の患者意見を分析したところ、半数近くがクレームに相当する意見である等、

 患者満足度が高いとは言えない状況であったため、患者の立場にたったケアや情報格差の解

 消といった取組が必要と認識していた。

 

取組の内容

【人からAIへのタスク・シフト】

 働き方改革と患者満足度向上を目指し、AIを導入した。

 内閣府の「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」事業の公募に採択され、病院のIT化・AI化を推進している。

 • 看護師の業務量調査の結果、記録に係る業務時間が多く、時間外勤務の要因となっている

 実態が明らかになった。

 • 記録業務をAIにタスク・シフトできないか、病院長の試みでベンチャー企業とともにAI開

 発していたところ、内閣府の公募を知り、応募、採択された。

 • 入院時、患者の服用薬把握に平均25分、最長3時間を要する。 AI画像処理の導入により、

 薬剤識別業務の負荷軽減を目指す。

 • タブレット型ロボットにて、入院誓約書や検査日程等の入院前説明を実施している。

 • 画面に表示された医師の仮想分身(”Dr.アバター”)による手術前インフォームドコンセン

 ト支援システムが、手術前に全身麻酔等の多様な病状に共通する説明を実施している。

 説明が一度で分からなかった個所は何度も聞き直すことを可能としている。

 • 神奈川県の新型コロナウィルス対策の一環で、オンライン診療システムを利用したオンラ

 イン面会を実施している。面会にあたっては、平日の17時以降面談室を使用し、職員が付

 き添いを実施している。これにより、対面でなくとも顔が見えることで、患者や患者家族

 の安心感と満足度向上につながっている。また、亡くなる前の患者と患者家族の面会など

 を、ルール上制限しなければならない職員の葛藤を緩和し、職員の満足度も向上している。

 既存の電子カルテシステムへの追加機能として、音声入力を開発中であり、病棟回診等で利用している。

 • 音声入力を導入したきっかけは、病棟看護師の業務量調査であった。看護師業務のうち、

 時間内の30%、時間外の40%が記録業務であり、記録業務を効率化することで看護師の業務

 負担を軽減可能と考えた。

 • 音声入力によりカルテを入力する負担を軽減すると同時に、患者の方を向いて話しができ

 ることにより、患者の安心につながる

 • 入力内容は、タブレットで確認や修正が可能である。

 • 導入当初の音声認識の精度は68.1%であったが、音声認識エンジンチューニング、マイク

 の使い方の向上、マイクのチューニングの対策を実施し、5カ月で95%まで精度を向上させ

 た。

 地域全体を巻き込み、急患で使用するカルテを電子化した。

 • 従前は、救急隊から受入病院への情報伝達はメモ書きで行われていたため、受入病院内の

 情報共有に難があった。救急隊がタブレットで情報を入力することで、受入病院内の情報

 共有が円滑になった。

 • 当院に限らず地域内の急患受入病院全てが、タブレットで入力された情報を確認できる体

 制を構築しており、受入病院によらず情報共有が可能となっている。

 

【地域医療連携】

 信頼獲得のため顔が見える関係を構築している。

 • 連携登録医471施設(医科・歯科含む)のうち、病院とは下り搬送などを通じてコミュニ

 ケーションをとっている。また、開業医についてもほぼ全てを担当者が訪問し、不都合や

 要望の聴取、アンケート等を行っている。

 • 医師会、救急、行政、住民等から成る諮問委員会にて、取り組みの説明や意見収集を行っ

 ている。これを基に、地域連携懇親会の開催や紹介の多い病院への感謝状贈呈等を実施し

 ている。

 かかりつけ医への逆紹介を推進している。

 • 必要な検査、治療が終了した患者は、かかりつけ医へ逆紹介しており、かかりつけ医がい

 ない、または専門が異なる場合は、かかりつけ医紹介窓口で案内する。必要な検査、治療が

 終了した患者は、かかりつけ医へ逆紹介しており、かかりつけ医がいない、または専門が異

 なる場合は、かかりつけ医紹介窓口で案内する。

 

【人材・自律性の育成とチーム医療の推進】

 職員の満足度を向上するため、キャリア支援や職員の自律を促す取組を実施している。

 • 2015年から、毎年希望する職員1名に対し、国際医療福祉大学 大学院 ヘルスケアMBAコ

 ースへの入学を支援している。事務職、看護師、薬剤師等の多職種が就学し、外部環境分

 析、AI開発、社会貢献等の分野で病院経営へ貢献している。

 • 看護師のキャリアップは診療の質を左右するため注力しており、専門看護師等を累計35名

 育成した。

 • 各部署のリーダー層を対象に、職員が求められる役割を自ら発揮できるようになるため、

 コーチングを導入した。

 • アセスメントセミナーやグループ演習を通じて、組織革新プロセスを推進・支援していく

 役割を担うセルフアセッサーを44名育成し、現在は現状認識、改善活動の推進者として活躍

 している。

 クリニカルパスに特化した部署としてCP管理室を設置し、きめ細やかな改訂と薬剤科による

パス監査の実施により、クリニカルパスを有効に活用している。

 • クリニカルパス適用率は2022年8月末時点で67.5%と高水準を維持している。

 • 最も有効に機能している循環器内科では、冠動脈造影検査で20回、カテーテルアブレーシ

 ョン治療で30回超と、きめ細かく多くの改訂を実施している。旧版コードの使用によるシス

 テムトラブルの軽減にも繋がっている。

 • 冠動脈造影検査は循環器病棟以外でも対応可能なように明瞭かつ詳細なオーダーが設定

 れている。

 • 薬剤科によるパス監査を実施し、薬剤に関するコメントを追加することで、院内の問い合

 わせ軽減、医師への処方入力依頼減少を実現している。同時に、院外採用薬のオーダーを無

 くすことに繋がり、調剤ミスも減少している。

 • パス監査では、新しいパスの申請があるたび、全パスの薬剤に関する項目について確認、

 修正している。

 

【その他の取組】

 他職種とのタスク・シフト/シェア

 • 医師事務作業補助者の導入 • 看護補助者の配置 • 病棟薬剤師の配置

 病棟マネジメント・業務マネジメント

 • 病状説明の原則時間内実施とその周知 • 二交替勤務の検討

 子育て・家族介護等の環境の整備

 • 院内保育所の充実 • パパ育休の検討

 働き方改革の推進体制の整備

 • 働き方改革プロジェクトチームの立ち上げ

 患者・患者家族対応に関する体制の整備

 • 入院前説明窓口の促進

 

取組の効果

【時間外勤務】

 全職種で月別の時間外残業時間を平均45時間未満に抑え、最も長い医師についても41時間となっている。

【職員意識調査】

 2014年度は、意欲は高いが満足度の低い「職員奮闘型」だったが、2016年以降は意欲・満足度が共に高い「活性型」に転換した。

【地域医療連携の深化】

 • 患者にとって必要な情報提供や地域連携が発展。地域連携パスの内容に止まらず、個々の

 患者に合わせた連携が進んできている。

 • なお、地域連携パスの使いにくさ(バリアンス分析が十分できず、改訂に時間が掛かる

 等)の問題もあり、令和3年度をもって、神奈川県がん診療連携協議会地域連携クリティカ

 ルパス部会は、発展的解消された。

 

今後の展望

 • AI音声入力の変換精度を向上させると共に、現場が望む機能を組み入れ、更なる患者サー

 ビスと働き方改革に寄与するシステムを構築する。

 • 診療看護師の育成には大学院教育を要するため、休職して通学する形になる上、費用が高

 額となる。補助金の支給等、より手厚いサポートを実施する。

 • 地域医療構想に則り、情報共有、人材交流、薬剤のフォーミュラリーといった地域医療連

 携を推進する。

 

〔「勤務環境改善に向けた好事例集(令和5年3月 令和4年度厚生労働省委託事業)」より〕

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