今週のコラム第112号「医師の働き方改革シリーズ第27回『臨床工学技士の業務範囲拡大等による働き方改革の取組』」(2023年10月10日号)

現在、各医療機関では、医師の時間外労働時間を短縮するため、さまざまなタスク・シフト/シェアに取り組まれていることと思いますが、今回は、麻酔補助臨床工学技士と特定行為研修修了看護師との連携により、手術室関連スタッフ全体の働き方改革を進め、手術室の稼働率を向上させている事例をご紹介します。

 

【臨床工学技士の業務範囲拡大による

働き方改革の取組】

(社会福祉法人聖隷福祉事業団 総合病院 聖隷浜松病院(静岡県浜松市))

※ 750床 職員数 1,808名(医師 306名、看護師 899名、他) 高度急性期

 

取組前の状況

【手術室の業務内容とスタッフ数の変遷】

 • 臨床工学技士は、手術全体を円滑に進めることに主眼を置き、1992年より麻酔導入介助

 を実施してきた。

 • 手術・麻酔の安全と質の向上、麻酔科医の負担軽減、手術室の効率的な運用を目的とし、

 麻酔科医とより近い視点で介助する麻酔補助業務を臨床工学技士から提案し、 2018年度よ

 り取組を開始した。

 • 2015年度から、臨床工学技士がスコープオペレーターへ参画し、また、2022年からはマ

 イトラクリップ症例への対応を開始した。

取組の内容

【臨床工学技士の麻酔補助業務への参画】

 臨床工学技士が麻酔補助業務を実施しており、従来は麻酔科医2名を要していた症例に対しても、麻酔科医1名と臨床工学技士で対応可能となっている。

 • 麻酔導入介助よりも麻酔科医と近い視点で介助する麻酔補助業務を臨床工学技士から提案

 し、 2018年度より取組を開始した。

 • 2018年度は2名枠、2019年度からは4名枠で業務を行っている。麻酔科医1名に麻酔補助臨

 床工学技士1名が付くことで、神経ブロックや気管支ファイバー介助といった、従来、麻酔

 科医2名で行っていた症例に対応可能となった。

 • 静脈路確保業務の実施開始にあたり、麻酔補助を行う臨床工学技士全員が告示研修を履修

 した。その後2021年11月より、麻酔科医指導のもと実施を開始した。

 <臨床工学技士が麻酔補助として行う業務>

  • 換気補助 • 気管内吸引 • 人工呼吸器の設定 • 薬剤準備と接続、投与

  • モニタリング機器セッティング • 静脈路確保 

  • 観血的動脈圧測定ライン作成及び確保の介助

  • 観血的動脈圧測定ラインからの採血

 毎朝のカンファレンスで情報共有を行っている。

 • 麻酔科部長が術前診察症例を1日3件程度ずつ、前日に決定し、毎朝のカンファレンスで情

 報共有を行っている

 • カンファレンスでは、身長・体重、既往歴、手術歴、内服薬、アレルギー、検査データ

 (血液検査/呼吸機能検査/心電図)の他、下記のような事項を共有している。

  ➢ 血算データや輸血準備の有無、開口障害等が無いか

  ➢ 手術歴がある場合、以前の麻酔方法や気道確保デバイスの確認

  ➢ リカバリーでの患者状態

 • 情報共有の効果として、臨床工学技士による手術前の問題発見がなされることがある。

 例えば、抗凝固薬、抗血小板薬の休薬忘れを手術前日にカルテから発見し、麻酔科医へ報告

 したことで、麻酔方法の検討・変更に繋がった。

 夜間休日対応や重症例対応についても、臨床工学技士が貢献している。

 • 2019年以降、麻酔補助臨床工学技士の夜間休日対応を開始した。

 • また、数カ月の試験期間を経て宅直制度も開始した。平日は担当麻酔科医と確認し、必要

 症例終了後に帰宅している。帰宅後及び休日は、担当麻酔科医の判断で呼出し対応を行って

 いる。

 • ASA-PS(ASA physical status:アメリカ麻酔科学会の全身状態分類)におけるClass4E

 以上の重症例については従来2名以上の麻酔科医で対応することが多かったが、麻酔科医1名

 と麻酔補助臨床工学技士で対応する事例も生まれている

 

【臨床工学技士のスコープオペレーターへの参画】

 勉強会参加等の様々な準備を行い、熟練を要するスコープオペレーターへの臨床工学技士の参画を実現した。

 • 鏡視下手術において術者の目となるスコープオペレーターは、従来は研修医が務めること

 が多かった。

 • 安全でストレスのない手術を行うため、スコープオペレーターには手術内容の十分な理

 解、熟練、術者との円滑な意思疎通が必要である。

 • スコープオペレーター参画にあたっては、業務への十分な習熟を目的に、勉強会参加等の

 様々な準備を行った

 • 2021年10月に施行された法改正により、スコープオペレーターが正式に臨床工学技士の

 業務として認められた。スコ ープオペレーターを含む新規業務について計1,650分以上の研

 修が必須となっており、そのうち、スコープオペレーターに関わる内容は420分以上の

 e-learning、220分以上の実習が割り当てられている。

【特定行為研修修了看護師等の育成・活用】

 特定行為研修修了看護師等を養成し、専門性の高い看護師で複数のチームを組成し、チーム医療を推進している。

 • 2020年4月から特定行為研修のパッケージ化が可能となった際、看護師が自ら声を挙げ、

 術中麻酔管理領域の特定行為研修修了看護師の養成を開始した。

 • 2023年1月現在、特定行為研修修了看護師15名が勤務している。また、それ以外にも診療

 看護師2名、認定看護師21名、専門看護師11名が在籍している。

 • こういった専門性の高い看護師を集め、複数のスペシャリストチームを組成し、チーム医

 療を推進している。例えば、「がん看護スペシャリストチーム」は認定看護師から構成さ

 れ、毎週チームカンファレンスを行い、患者及び患者家族に最善の看護を提供できるよう検

 討している。また、がん看護専門教育コースを開設し、がん看護を担う看護師の教育にも注

 力している。

 

【看護部における教育システムの整備・キャリア支援の取組】

 キャリアラダーや院内認定看護師制度を整えており、教育やキャリア支援に注力している。

 • キャリアラダーを制定しており、個々人が自身の実践状況と照らし合わせることで、現在

 の能力と次の目標を見出すことができる。

 • 院内認定看護師制度として「院内認定退院支援看護師」「院内認定看護診断指導看護師」

 等の養成コースを設け、病院にいながら専門分野を深めることができる

 • 看護部キャリア支援学習会が年間50回程度開催されている。またがん診療や医療安全、感

 染予防等病院開催の学習会も多数あり、自由に参加できる体制がとられている。

 • 看護研究が活発に行われている他、海外研修制度も設けられている。

 

取組の効果

【麻酔補助実施件数の増加と手術室稼働率の改善】

 • 一部の症例の対応を麻酔科医2名体制から麻酔科医1名及び麻酔補助を行う臨床工学技士

 1名の体制に変更することにより、日勤帯の麻酔科医を減少させることなく夜間手術に対応

 することが可能となった。

  ➢ 夜間休日対応:2019年度の46件から2021年度には60件へと増加

  ➢ ASA-PS: Class4E以上の重症例にも57件に対応(うち緊急呼出し対応27件)

 • また、日勤帯の麻酔科医を確保できることで、日中の手術室の稼働率が向上するため、日

 勤帯中に終了する手術の割合が高くなっている。この結果として、手術室関連スタッフ全体

 の働き方改革にも繋がっている。

【スコープオペレーター参画によるタスク・シフト】

 • 外科医の確保が難しい中、臨床工学技士がスコープオペレーターを行うことで、手術中に

 医師1名が充足され、病棟や外来業務を行えるようになった。

 • 術中に臨床工学技士が手術室内に居ることにより、機器トラブルやセットアップの対応が

 迅速に行える環境となった。結果として、医師が手術に関わる時間を短縮でき、他業務に従

 事する時間を確保できている。

 • 2020年7月から2022年6月までの2年間で1,885時間、年間900時間以上のタスク・シフト

 が実現できている。

 • 臨床工学技士が特定の科でスコープオペレーターを務めることで専門性が上がり、視野が

 安定した。医師が術中操作に専念できるようになり、安全性の確保にも繋がった。

 • セッティングや片付けへの介入により、カメラの修理費用削減や術中トラブル時の迅速な

 対応にも繋がっている。

 

今後の展望

 • 今後は、電子問診票の導入などを始めとしたDXの推進に取り組む。

 • 多様な雇用形態による医師募集、チーム医療の推進など、柔軟な勤務体系の導入を検討す

 る。

 • 麻酔補助臨床工学技士と特定行為研修修了看護師との連携により、手術室の稼働率をさら

 に向上させる。

 • スコープオペレーター業務未実施の診療科への浸透により、医師のタスク・シフトを拡大

 させる。

 • 清潔野業務(器械出し)の拡大により、手術看護師からのタスク・シフトによる並列手術

 を拡大させる。

 

〔「勤務環境改善に向けた好事例集(令和5年3月 令和4年度厚生労働省委託事業)」より〕

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