今週のコラム第110号「医師の働き方改革シリーズ第25回『業務効率化や業務体制の改革による、働きやすい職場環境の実現』」(2023年9月26日号)

医師の時間外・休日労働時間を短くするためのタスクシフト・シェアに取り組んでいる医療機関は多いと思いますが、他職種へ業務を移しただけでは、すべての職種の働き方改革は実現できません。

そこで、業務標準化や他職種連携による業務効率の向上によって、すべての職種において時間外労働を減少させた事例をご紹介します。

 

【業務効率化や業務体制の改革による、 働きやすい職場環境の実現】

(公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院(岡山県倉敷市))

※1,172床 職員数 3,791名(医師559名、看護師1,365名、他) 高度急性期

 

 

取組前の状況

【働き方改革関連法への対応】

• 医療業界においても、働き方改革関連法への対応が必要となった。特に、2024年4月から適用される、医師の時間外・休日労働規制に対応するためには、業務の効率化やタスク・シフト等、医師の負担軽減に多面的に取り組む必要に迫られた。

• 加えて、労働基準法の労使協定(36協定)に基づき、法的に定められた職員の休暇取得や残業の実態を“見える化”し、正確に把握するとともに、特定の職員への業務の集中や偏りをなくし、業務を平準化する必要があった。

 

【日当直体制の見直し】

• 従来は診療科単独、あるいは診療科合同で日当直体制を組んで対応していた。

• 日当直時の実際の状況から、将来的には日当直として許可基準を満たせなくなることが危惧された。

• 一方で、全て時間外労働とすると、時間外規制に抵触する恐れがあるだけでなく、病院にも相当のコストがかかること となるため、時間外労働の削減と日当直の見直しが必要であった。

 

【働き方改革推進体制の構築】

• 2017年6月に、職員の勤務環境改善を目的として労働時間・働き方ワーキングを発足した。

• 2019年9月に、医師の時間外労働・宿日直見直しに着目したワーキングへと発展し、現在はこのワーキングを中心に 医師の働き方改革を推進している。

 

取組の内容

【業務効率化】

 業務標準化や他職種連携による、手術センターの業務効率向上に取り組んでいる。

 • 術間時間を短縮して18時以降の手術を抑制すること、準備品により使用不可の手術室をな

 くすことを目標に、多職種協働で手術センターの効率化の取組を2020年より開始した。

 ⑴ 手術器械・材料の標準化と簡素化

  • 従来は必要以上の器械が準備されていたが、必要な器械だけをケースに収納し、ケース

  内の トレイを台に置き換えるだけで準備が完了するようにした。

  • 結果、準備が4分から20秒に短縮された。また、作業量が整理され、アシスタントへの業

  務移管も円滑になった。

 ⑵ 手術室準備業務の外部委託

  • 従来は各診療科や個別の医師の要望に応じて手術機器の配置や準備物が定められてお

  り、 500種類超の手術室配置図が存在していたため、手術室準備時間の合計は1日当たり

  880分であった。

  • 各診療科に要望し、配置図を標準化して180種類以下にした。手術機器等もリスト化する

  ことで、術後の部屋清掃を委託先へ円滑にタスク・シフト可能となった。

  • 結果として、部屋の準備時間を341分に短縮できた。

 ⑶ 術後の病棟への連絡を二段階へと標準化

  • 手術後に病棟へ連絡するタイミングを、術後にまず一報、退出可能となった段階で二報

  を入れる運用に標準化した。

  • 病棟では手術センターに出向くタイミングの目途が立ちやすくなり、手術センターは

  早期退出可能となったことにより、次の手術の準備に取り掛かりやすくなった。

 ⑷ 多職種協働による生産性の向上

  • 薬剤師は、術中に使用する麻薬、筋弛緩薬等の混合調製を実施している。オーダー入力

  を行う医師の負担軽減や、締切時間までの未入力事例防止のため、ORSYSで使用薬剤を

  オーダリングするシステムも導入した。

  • 臨床工学技士がda Vinciをはじめ、多数の医療機器の保守管理を担当している。手術運

  営の拡大を目指し、看護師が実施していたロボット支援手術の器械出し業務もタスク・シ

  フ トした。

 

【日当直体制の改善】

 日当直の実際の稼働状況から、日当直のシフト勤務化に取り組んでいる。

 • 宿日直中の実稼働の多い診療科で交替勤務を導入しており、現在多くの診療科で交替勤務

 制を実施している。 導入を予定している診療科もあり、今後さらに交替勤務制を実施する診

 療科は増加予定である。

 • シフト勤務化の他、いくつかの診療科で協力し、当直からオンコール体制への移行も検討

 している。

 日当直体制の見直しと並行し、夜勤帯に仕事を持ち越さないための、日勤帯の働き方改革を実施した。

 • 夜勤・当直明けには、休める体制を構築した。

 • チーム制を導入し、主治医に依存した体制からの脱却を推進している。

 

【タスク・シフト】

 医師の負担軽減のため、薬剤師の処方支援業務を実施している。

 • 医師の包括的指示により、電子カルテ上で薬剤師が医薬品をオーダーし、薬剤師が調剤し

 ている。

 • 診療科によって医師の処方に対する考え方が異なるため、タスク・シフトに共感してもら

 える診療科から開始した。

 • 単なる右から左へのタスク・シフトであれば、病院全体の労力は変わらず、移管先部署の

 人員が増えるだけの場合もある。しかし、薬剤師が処方支援業務を行った場合、時間外処方

 の減少、処方の整理により総処方箋数の減少、薬剤師の主体的な治療への関わりにつながる

 というメリットがある。

 タスクを受け取る薬剤師の働き方改革も実施した。

 • 業務の属人性を排除し、標準化を推し進め、業務のIT化、ロボット化(散薬調剤ロボット

 の活用)を推進した。

 • 業務の優先順位を決定し、不要不急の会議、過剰な資料作成等を見直した。

 • 薬剤師の意識を改革するために、調剤数等の個人の業務実績の「見える化」の実施、経験

 年数に応じた実績となるよう業務の割り振りの調整を実施した。

 • 病棟グループ担当制(複数病棟を複数薬剤師で担当)の導入、薬物療法マニュアルの作成

 等の業務効率化に 取り組んだ。

 薬剤師以外の他職種とのタスク・シフトも推進した。

 • 医師事務作業補助者の配置により、医師の事務作業の負担軽減を推進した。

 • 特定行為研修修了者を複数名配置し、医師の負担を軽減した。

 

【働きやすい職場環境の実現に向けた取組】

 各種の勤務制度をより利用しやすい制度へと改善した。

 • 私傷病休暇制度を変更し、「付与されてから2年間未取得のため消滅となる年休について、

 1年につき10日を限度に最大50日まで私傷病休暇を保有することが可能」とした。適用範囲

 も拡大し、保有年休を全て消化した場合に 病気・育児(学校行事への参加含む)で休む必要

 がある場合は、1日でも取得可能とした。また、社会貢献・ボラ ンティア活動に参加する場

 合 、年休に優先して年間10日以内取得可能とした。2022年からは不妊治療にも適用 を拡大

 した。

 • 育児短時間勤務制度の適用を拡大し、従来は「3歳未満の子の育児のため」であったが、

 「小学3年生まで」に延長 した。また、育児休暇取得の推進と取得者の円滑な職場復帰のた

 めの育児休職者懇談会を実施している。

 • 始業または終業に付随して2時間の年休を取得可能とし、職員のワーク・ライフ・バランス

 向上や年休の効率的利用、 職場の柔軟な人員確保・配置を目指している。

 • 新型コロナウイルスへの感染リスクへの対応とともに、ワーク・ライフ・バランス推進の

 一環として2020年4月より在宅勤務を導入した。現在はワーク・ライフ・バランスの一環と

 しての側面を中心に、放射線診療科及び他の医師2~3名が 利用している。

 その他、働きやすい職場環境の整備として、院内保育所やハラスメント対策室を設置している。

 • 院内保育所を設置し、24時間の保育体制をとっている。病児保育も実施しており、現在は

 最大2名の受け入れだが、 今後は最大11名への拡大を検討中である。

 • 祝日稼働日に出勤する職員向けに、院内託児所を設け、毎回40名ほど利用している。院内

 保育対象外の小学生も対象である。

 • ハラスメント相談窓口を設置し、専任スタッフが職員からの訴えに対応し、パワーハラス

 メントやセクシュアルハラスメント の予防・是正を行っている。また、ハラスメント研修会

 を開催し、ハラスメントが起こりにくい職場作りを学ぶ機会を設け るようにしている。

 

取組の効果

【手術センターの業務効率化】

 対2018年度で2021年度は夕方以降の手術が減少

 • 18:30時点で、2.5列減少した。

 手術室の準備時間が短縮

 • 手術器械の準備が4分から20秒に短縮された。

 • 手術室配置図の標準化や、部屋清掃の外部委託により、1日当たり880分から341分に短縮

 された。

【医師の負担軽減に向けたタスク・シフト/シェア 】

 • 全職種において時間外労働が減少傾向となっている。なお、2021年度は、新型コロナウイ

 ルス感染症の流行により、 時間外勤務が増加した。

 • 薬剤師による処方支援は増加しており、処方支援割合は2020年度が約8.5%、2021年度が約

 10%である。 

【働きやすい職場環境の実現に向けた取組】

 男性職員の育休取得率向上

 • 取得人数実績:2018年度1人、2019年度4人、 2020年度11人、2021年度21人

 2時間年休の浸透

 • 2021年度:3,182件、6,364時間、1日当たり8 時間換算で795.5日相当の休暇取得を創出

 

〔「勤務環境改善に向けた好事例集(令和5年3月 令和4年度厚生労働省委託事業)」より〕

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