多くの医療機関では、医師に対して勤怠管理システムを導入しても、なかなか打刻率が上がらず、苦労されているところも多いのではないでしょうか。また、固定残業代によって、残業をしてもしなくても、給与額に変わりがなく、不公平感を訴える医師がいませんか。

今回は、これらの課題を解決した医療機関の好事例をご紹介します。

 

【勤怠管理システムの導入による労働時間管理と給与制度の改変】

（社会福祉法人恩賜財団済生会横浜市東部病院（神奈川県横浜市））

※　562床　職員数1487名（医師260名、看護師714名、薬剤師48名、他）　高度・急性期　25科

 

取組前の状況

〈勤怠管理の状況〉

・　勤怠管理は全職員が月次の出勤簿により実施していたが、医師については、月に一度の

　提出時にまとめて記載する運用が常態化。

・　タイムカードは設置されていたものの、使用率が低く、勤務時間の管理は事実上不可能。

 

〈課題〉

・　タイムレコーダーは設置されているものの、約3割の医師が適正に行っておらず、労働時

　間の把握が適正に行われていない。

・　長時間労働が発生しているか不明。

 

取組の内容

〈新方式の導入　2018-2019〉

・　高機能のタイムレコーダーを導入し、残業申請がWeb上で可能に。

・　個人・診療科単位でのタイムカード打刻率を公表。

　結果的に医師のタイムカード打刻率が上昇。（2016年　68％　→　2018年　92％）

 

〈医師の働き方改革への対応　2019〉

　病院の現状を考慮し、次のような対応を模索。

・　高度急性期病院であるが、A水準を目指す。

・　宿日直許可は求めず、日当直勤務をすべて労働時間とする。

・　人件費全体の大幅な高騰、医師個人への支給額の変化を最少額にする給与計算法を模索。

 

〈新々方式の導入　2019-2020〉

・　「みなし残業」を月45時間で設定、45時間を超えた分を時間外手当として支給。

・　申請しやすい勤怠管理システムを導入することで、時間外・自己研鑽の入力が容易に。

 

〈新々方式の問題点〉

・　時間外が0時間も45時間も同支給額であり、不公平との声が増加。

・　月80時間、100時間を超えても時間外手当が増加。

 

〈新々々方式の導入　2021年～〉

・　時間外単価を適正値に抑えた上で、1時間から支給される時間外勤務手当の導入。

・　基礎賃金に含まれない手当の名目を「残業ゼロ奨励手当」に変更、残業ゼロで満額支給と

　した。

 

その他の取組

　時間外勤務の管理と給与計算法の適正化は進んだが、医師個人の意識改革が重要。

　→　単に残業を減らせというのではなく、病院側からの支援策が必要。

 

〈医師業務の分担〉

　医師・看護師・薬剤師など他職種との協働、患者サポートセンターとの協働等

 

〈日常業務の合理化〉

　院内業務の合理化も職員労働時間適正化には重要。

　委員会・会議の合理化

　　〇　管理・管轄する責任部門（労働時間適正化委員会）

　　〇　会開催頻度・会議時間・開催時刻・議事録等合理化

　手術室運用

　　〇　予定手術を待たされる運用をなくす

　祝日診療

　　〇　診療機会を広げて時間密度を平準化する

　電子カルテ利用の合理化

　　〇　機能の有効活用

　　〇　クリニカルパス・テンプレートなどの活用

　ICTの活用

　　〇　画像診断デレワーク

　　〇　地域医療情報ネットワーク（リルビアねっと）

　患者サイドの理解

　　〇　時間外、休日等の説明時間削減

 

取組の効果

〈医師の所定外在院時間の減少〉

　新方式施行後から、医師の所定外在院時間が徐々に減少

 

〔「勤務環境改善に向けた好事例集（令和4年3月　令和3年度厚生労働省委託事業」より〕

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