今週のコラム第86号「医師の働き方改革シリーズ第3回『宿日直許可を受けるためには』」(2023年1月31日号)

最近、大学の医局等から医師を受け入れている医療機関では、大学の医局等から宿日直許可を受けるように求められ、ご苦労されているところも多いのではないでしょうか。

今回は、宿日直許可を受けるためにはどうしたらよいかについて、あらためて解説してみたいと思います。

 

労働基準法では、常態としてほとんど労働することがなく、労働時間規制を適用しなくとも必ずしも労働者保護に欠けることのない宿直又は日直の勤務で断続的な業務(典型的には、 いわゆる「寝当直」に当たるような業務)については、労働基準監督署長の許可を受けた場合に労働時間規制を適用除外とすることを定めています(宿日直許可)。

つまり、宿日直の時間を労働時間に含めなくてもよいということです。

ただし、過去に労働基準監督署長の許可を受けていたとしても、現在の勤務実態が許可条件に適合していないと、労働時間に含めて考える必要があります。

 

1.断続的な宿日直の許可基準(一般的許可基準。「労働基準法の施行に

 関する件(昭和22年9月13日発基第17号労働次官通達)」。)

  断続的な宿日直の許可基準は次のとおりとなっています。

 ① 勤務の態様

ア 常態として、ほとんど労働をする必要のない勤務のみを認めるものであり、 定時的巡

 視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするものに限って

 許可するものであること。

イ 原則として、通常の労働の継続は許可しないこと。したがって始業又は終業時刻に密

 着した時間帯に、顧客からの電話の収受又は盗難・火災防止を行うものについては、許

 可しないものであること。

 ② 宿日直手当

  宿直勤務1回についての宿直手当又は日直勤務1回についての日直手当の最低額は、当

 該事業場において宿直又は日直の勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して

 支払われている賃金の一人1日平均額の1/3以上であること。

 ③ 宿日直の回数

  許可の対象となる宿直又は日直の勤務回数については、宿直勤務については週1回、日

 直勤務については月1回を限度とすること。ただし、当該事業場に勤務する 18 歳以上の

 者で法律上宿直又は日直を行いうるすべてのものに宿直又は日直をさせてもなお不足であ

 り、かつ勤務の労働密度が薄い場合には、宿直又は日直業務の実態に応じて週1回を超え

 る宿直、月1回を超える日直についても許可して差し支えないこと。

 ④ その他

  宿直勤務については、相当の睡眠設備の設置を条件とするものであること。

 

2.断続的な宿日直の許可基準(医師、看護師等の場合。「医師、看護師

 等の宿日直許可基準について(令和元年7月1日基発 0701第8号労働

 基準局長通達)」)

  医師等の宿日直勤務については、(1)の一般的な許可基準に関して、より具体的な判断

 基準が示されており、次のすべてを満たす場合には、許可を与えるよう取り扱うこととされ

 ています。

 ① 通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること。(通常の勤務時間が

  終了していたとしても、通常の勤務態様が継続している間は宿日直の許可の対象にならな

  い。)

 ② 宿日直中に従事する業務は、(1)の一般の宿直業務以外には、特殊の措置を必要とし

  ない軽度の又は短時間の業務に限ること。例えば次の業務等をいう。

・医師が、少数の要注意患者の状態の変動に対応するため、問診等による診察等(軽度の

 処置を含む。以下同じ。)や、 看護師等に対する指示、確認を行うこと。

・医師が、外来患者の来院が通常予定されない休日・夜間(例えば非輪番日など)におい

 て、少数の軽症の外来患者や、かかりつけ患者の状態の変動に対応するため、問診等に

 よる診察等や、 看護師等に対する指示、確認を行うこと

・看護職員が、外来患者の来院が通常予定されない休日・夜間(例えば非輪番日など)に

 おいて、少数の軽症の外来患者や、かかりつけ患者の状態の変動に対応するため、問診

 等を行うことや、 医師に対する報告を行うこと。

・看護職員が、病室の定時巡回、患者の状態の変動の医師への報告、少数の要注意患者の

 定時検脈、検温を行うこと。

③ 宿直の場合は、夜間に十分睡眠がとり得ること 。

④ 上記以外に、一般の宿日直許可の際の条件を満たしていること。

 ※ 宿日直の許可は、所属診療科、職種、 時間帯、業務の種類等を限って得ることも可

  能(深夜の時間帯のみ、病棟宿日直業務のみも可能。)。

 

 【宿日直中に通常勤務と同態様の業務が生じてしまう場合】

  宿日直中に、通常と同態様の業務(例えば突発的な事故による応急患者の診療又は入院、

 患者の死亡、出産等への対応など)がまれにあり得るとしても、一般的には、常態としてほ

 とんど労働することがない勤務と認められれば、宿日直の許可は可能だとされています(宿

 直の場合には、夜間に十分な睡眠が取り得るものであることも必要。)。

 なお、許可を受けた宿日直中に、「通常と同態様の業務」をまれに行った場合、その時間

については、本来の賃金(割増賃金が必要な場合は割増賃金も)を支払う必要があります。

 

3.申請から宿日直許可までの流れ

 労働基準監督署に宿日直許可の申請を行ってから許可を受けるまでの流れは、おおむね次のとおりです 。

 ① 労働基準監督署に、申請書原本2部及び添付書類を提出

 → 申請対象である宿日直の勤務実態が、(2)の条件を満たしていることを書面上で

  確認します。

 ② 労働基準監督官による実地調査

 → 宿日直業務に実際に従事する医師等へのヒアリングや、仮眠スペースの確認等を、

  原則として実地で行い、申請時に提出された書類の内容が事実に即したものかの確認

  を行います。また、勤務実態の確認に必要な期間(基本的には1か月、必要な場合は

  3か月程度)の勤務記録の提出を求められます。

③ ①②の結果、許可相当と認められた場合に宿日直許可がなされ、許可書が交付されま

 す。

【申請時に提出が必要な書類例】

 宿日直当番表、宿日直日誌や急患日誌等、 宿日直中に従事する業務内容、業務内容ごとの対応時間が分かる資料(電子カルテのログや急患日誌等を基に作成)、仮眠室等の待機場所が分かる図面及び写真、宿日直勤務者の賃金一覧表、宿日直手当の算出根拠がわかる就業規則等(これらは標準的な例であり、実務上は監督官が調査に必要な範囲で提出を依頼します。)

 

4.どのような場合に、宿日直許可を受けることができるか。

厚生労働省が公表している許可事例には、次のようなものがあります。

○ 救急指定を受けていない病院で、過去1か月の実情を調査したところ、宿直勤務中の業務

 としては、少数の軽傷の外来患者の問診を実施し、宿直勤務中に発生する通常の勤務時間

 と同態様の業務としては、入院患者の死亡確認、搬送される救急患者の診察という対応が

 あるが、数か月に1回程度発生するケース。

  また、宿日直勤務中に発生する通常の勤務時間と同態様の業務としては、入院患者の容

 態急変時の薬の投与、高度な措置が必要な場合の大規模病院への移送指示、死亡確認があ

 るが、いずれも11件あるかないかで、対応時間も1件当たり5分から20分程度のケース。

○ 3次救急病院で、宿直勤務は17時から開始しているが、17時から23時までは時間外労働

 として扱ったうえで、救急外来患者への対応件数が減少する23時以降の時間帯に限定し

 て、宿日直許可を受けたケース。

○ 産科で、過去1か月間の実情を調査したところ、宿直中に発生する通常の勤務時間と同態

 様の業務は、予定より早い分娩対応が、発生件数月3件、対応時間は1件当たり20分程度、

 外来患者の診察が発生件数月6件、対応時間が1件当たり10分程度のケース。

  また、過去5か月間の実情を調査したところ、宿直中に発生する通常の勤務時間と同態様

 の業務は、入院・外来患者の分娩対応が、宿直で月平均1.4件(最大3件)、日直で月最大

 1件、対応時間は1件当たり平均54分、宿日直中に帝王切開を行うことは、年に最大1件、

 対応時間は約1時間となっており、宿日直中の体制では対処できないような緊急の処置が求

 められる場合は他病院へ搬送するといったケース。

  さらに、宿日直中の分娩対応は助産師が行い、産科医は立ち会うのみで、帝王切開等の

 手術は院長が行うケース。

 

 以上のケースは、あくまでも個別の具体的な事例ですので、事例中の態様や数値等が同じであるかどうかによって、他の事例の許可・不許可が判断されるものではありませんが、これまで宿日直許可を受けることが難しいと思われていた救急や産科であっても、宿日直中の勤務実態によっては許可を受けることができますので、皆様の病院における実態をよく確認してみてください。

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