今週のコラム第4号「アルバイト・契約社員に賞与や退職金を支払わなければならないのか?」(2020年10月27日号)

10月13日と15日に、同一労働同一賃金に関する重要な最高裁判所の判決が出ました。今回は、10月13日のアルバイト・契約社員に対する賞与・退職金の支払いに関する2つの判決の内容をご紹介します。

 

1 アルバイト職員に対する賞与(大阪医科薬科大学事件 令和2年10月13日最高裁判決)

 

この事件は、アルバイト職員に対し賞与を支払わないことが、旧労働契約法第20条に反するか、つまり同一労働同一賃金に反するかどうかが、争われたものです。

 

旧労働契約法第20条とは、先般の働き方改革関連法によって改正される前の条文で、有期雇用労働者と正社員の労働条件は、次の3点を考慮して、不合理であってはならないとされており、この考え方は、短時間労働者を含めて、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第8条に引き継がれています。

 

 ① 職務の内容の違い

 ② 職務の内容や配置の変更の範囲の違い

 ③ その他の事情

 

大阪医科薬科大学では、正職員に対し、通年で基本給の4.6か月分の賞与を支給していましたが、この事件の前の大阪高等裁判所では、この賞与は、正職員として在籍し、就労していたことの対価としての性質を有するから、同じ期間在籍し、就労していたアルバイト職員に賞与を全く支給しないことは不合理であり、アルバイト職員に対し、正職員の賞与の60%を下回る賞与を支払うことは、不合理であるとされていました。

 

ところが、この最高裁判所の判決では、この賞与の目的を「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る」ことにあるとして、次の3点を考慮して、アルバイト職員に賞与を支払わないことは、不合理ではないとしました。

 

 ①(職務の内容の違い)アルバイト職員の業務は相当に軽易であるのに対し、正職員は、ア

  ルバイト職員と共通する業務に加えて、英文学術誌の編集事務等、病理解剖に関する遺族

  等への対応や部門間の連携を要する業務または毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事する

  必要があり、職務の内容に一定の相違があった。

 

 ②(職務の内容や配置の変更の範囲の違い)正職員は、人事異動を命じられる可能性があっ

  たのに対し、アルバイト職員は、原則として配置転換されることはなく、両者の職務の内

  容及び配置の変更の範囲に一定の相違があった。

 

 ③(その他の事情)アルバイト職員については、正職員へ段階的に職種を変更するための試

  験による登用制度が設けられていた。

 

ここで、ご注意いただきたいのは、アルバイト職員だから賞与を支払わなくてもよいというのではなく、正職員との間で、①職務の内容の違い、②職務の内容や配置の変更の範囲の違い、③その他の事情が認められるかどうかという点です。

 

2.契約社員に対する退職金(メトロコマース事件 令和2年10月13日最高裁判決)

 

この事件は、契約社員に対し退職金を支払わないことが、旧労働契約法第20条に反するか、つまり同一労働同一賃金に反するかどうかが、争われたものです。

 

一般に、退職金には、①賃金の後払い、②長年の勤務に対する功労報償、③有為な人材の確保や定着を図ること、という性格があると言われていますが、この事件の前の東京高等裁判所では、原告の契約社員が契約の更新により10年前後の長期間にわたって勤務したこと等を考慮して、長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金(正社員の4分の1相当額)すら一切支給しないことは不合理であるとされていました。

 

ところが、この最高裁判所の判決では、退職金の性格のうち、「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る」という性格を重視して、次の3点を考慮して、契約社員に退職金を支給しないことは、不合理ではないとしました。

 

 ①(職務の内容の違い)正社員は、販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在

  の販売員に代わって早番や遅番の業務を行うほか、複数の売店を統括し、売上向上のため

  の指導、改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理、商品補充に関する業務等に従

  事することがあったのに対し、契約社員は、売店業務に専従しており、両者の職務の内容

  に一定の相違があった。

 

 ②(職務の内容や配置の変更の範囲の違い)正社員については、業務の必要により配置転換

  等を命じられる現実の可能性があり、正当な理由なく拒否することができなかったのに対

  し、契約社員は、業務の場所の変更を命じられることはあっても、業務の内容に変更はな

  く、配置転換等を命じられることはなかった。

 

 ③(その他の事情)契約社員を正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による

  登用制度を設け、相当数の契約社員を正社員に登用していた。

 

そのほか、裁判官の補足意見の中で、次のような意見があったことも注目に値すると思います。

 

「退職金制度を持続的に運用していくためには、その原資を長期間にわたって積み立てるなどして用意する必要があることから、退職金制度の在り方は、社会経済情勢や使用者の経営状況の動向等にも左右されるといえる。そうすると、退職金制度の構築に関し、これら諸般の事情を踏まえて行われる使用者の裁量判断を尊重する余地は、比較的大きいものと解されよう。」

 

以上2つの最高裁判所の判決を見てきましたが、これで、アルバイト・契約社員には賞与・退職金を支払わなくてもいいんだと早合点するのは、大変危険だと思います。

 

やはり、正社員とアルバイト・契約社員の①職務の内容の違い、②職務の内容や配置の変更の範囲の違い、③その他の事情をよく考えてみる必要がありそうです。

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