今週のコラム第36号「病院の働き方改革と健康経営」(2021年8月24日号)

病院の働き方改革を進めるうえで、欠かせない視点が健康経営です。健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することであり、従業員への健康投資を行うことは、活力向上や生産性向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上につながる取組みです。

今回は、健康経営の意義と具体的な取組内容等をご紹介します。

 

1.健康経営の意義

 健康経営とは、従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践することです。それでは、従業員の健康が確保されていないと、どのような弊害・コストが考えられるでしょうか。

 

 まず、病院においては、医師が医療事故やヒヤリ・ハットを経験した割合は、勤務時間が長くなるほど上昇します。また、 睡眠不足は、作業能力を低下させたり、反応の誤りを増加させたりすることがわかっています。医療の安全性を確保するためには、何よりも医療従事者の健康の確保は極めて重要な課題です。

 

 また、従業員の健康に関して、企業はさまざまな負担をしていますが、東大の研究チームの報告によれば、最も大きな割合を占めているのが、従業員が出社していても、何らかの不調のせいで頭や身体が思うように動かず本来発揮されるべきパフォーマンス(職務遂行能力)が低下している状態によるもの(プレゼンティーイズム)で、企業の健康関連総コストの77.9%を占めていると言われています。医療費負担の占める割合は、わずか15.7%にすぎません。(東京都福祉保健局「健康経営って何?~職場の健康づくりが企業の成長につながる~」p.11)

 

 このように、従業員の健康を確保することは、医療の安全性を高め、労働生産性を向上させるという積極的な意義を認め、そのために積極的に投資することが病院にも必要となっています。

 

 特に、今後、若い働き手が減少していきますので、従業員の確保に向けて、医療機関同士はもとより、他の業種との間でも競争が激しくなっていきます。一般企業ではすでに長時間労働の是正が進み、健康経営への関心も高まってきています。従業員の健康への配慮を怠っていれば、病院の職場としての魅力がなくなり、他の病院または他の業種への転職が進み、新しい従業員の確保も難しくなります。

 

 病院も、健康経営の観点から、働き方改革を進めていくことが重要です。

 

2.健康経営のための具体的な取組

 健康経営を実践するには、健康経営の取組が“経営基盤から現場の施策まで”の様々なレベルで連動・連携していることが重要です。そのためには、「①経営理念・方針」、「②組織体制」、「③制度・施策実行」、「④評価改善」の取組が必要です。

 

(1) 経営理念・方針への位置づけ

 従業員の健康を経営課題として捉え、実行力を伴って健康経営に取り組むためには、経営トップがその意義や重要性をしっかり認識するとともに、その考え(理念)を病院内外にしっかり示すことが肝要です。その表れとして、健康経営を経営理念の中に明文化することで、病院として健康経営に取り組む姿勢を従業員等にメッセージとして発信することが望ましいです。

 

(2) 組織体制づくり

 従業員の健康保持・増進に向けた実行力ある組織体制の構築にあたっては、方針に応じて、事務部など既存の部署に専任職員、兼任職員を置くなどの対応が考えられます。また、取組の効果を高めるため、従業員の健康保持・増進を担当する職員について、専門資格を持つ職員を配置する、担当する職員に対しての研修の実施などすることも重要です。

 また、従業員の参画・行動変容を促すような全病院的取組を実効的なものとするためには、各部署が一丸となり取り組むよう経営トップ及び経営層全体において、その取組の必要性等が共有される必要があります。そのため、従業員の健康保持・増進の取組に関する取組については、企画立案の段階から、役員会での討議事項とする等の体制を整備することが重要です。

 

(3) 制度・施策の実行

 従業員の健康保持・増進の取組は、事業主としての病院(経営トップや担当部署)、産業医や保健師等の産業保健スタッフ、労働組合、従業員等様々な主体が関与して実施されるものです。健康経営を実践する上では、これらの主体が互いに連携し、相互補完的又は相乗的な効果のある効率的な制度・施策がなされることが望ましいです。

 なかでも、病院では、正規雇用、非正規雇用の違いなど、就労環境や福利厚生などの様々な労働条件化で従業員が働いていますが、これらの従業員の健康保持・増進を総合的に推進するためには、日頃からのマネジメントを行う病院自身の役割が重要です。

 事業主たる経営者のリーダーシップのもと、人事部署、産業保健スタッフ、健康保険組合等の保険者が連携して、従業員の健康保持・増進に関する病院の取組や保険者の取組などの全体を把握した上で、取組の重複や不足などを整理・検討し、それぞれの役割に応じた取組を行うことで、事業の効率化を図ることが可能となります。

 

 ① 従業員の健康状態を把握する(健康情報の利活用)

 健康経営を実践する上では、前提として、病院の従業員の健康上の課題を把握することが必要です。そこで、病院自身や健保組合等の保険者が保有する病院の従業員の健康状態に係るデータを整理し、これを活用することが望まれます。

 データの活用においては、新しく何らかの情報を集めることよりも、まずは病院と健康保険組合等の保険者がそれぞれで既に持っているデータを掛け合わせることが重要です。例えば、病院は、定期健康診断の結果に加え、長時間労働の状況等に関する情報を保有しており、保険者は、従業員の特定健康診査の結果や治療・処方箋に関するレセプト情報等を保有していますが、こうしたデータを掛け合わせることで、長時間労働と特定保健指導の要否や医療費等との相関関係などを分析することが可能となります。

 これにより、部署・業種別の健康課題の把握や、医療費を下げる、メンタルヘルス不調者を減らす等の具体的目標に向けた施策を検討する際の基礎データを作り上げることができます。例えば、特定の部署に健康状態の悪い従業員が集中しているような場合には、業務内容、職場環境が個人の健康状態を悪化させている可能性があり、職場の環境改善、業務負担の見直し等を検討する余地があると言えます。また、年齢構成に照らして病院の従業員のメタボ対象者又は予備軍が多い場合、将来的に糖尿病等の生活習慣病が重症化することにより、治療に要する医療費負担、健康上の理由による個人の生産性低下(プレゼンティーイズム)、健康上の理由による長期欠勤等の機会損失(アブセンティーイズム)が増える可能性があります。

 そのほか、独自に従業員の日常的な健康や身体活動に関するデータを蓄積して、健康づくりに生かすことも効果的です。例えば、従業員に歩数計を配布し、日頃の活動量の把握や、血圧計や体組成計によるバイタルデータの蓄積も進んでいます。

 

 ② 計画(成果目標)を立てる

 各病院の健康課題に対応した保健事業を計画するとともに、取組成果の評価と計画の改善を効果的に行うことができるように、あらかじめ評価指標を設定し、成果の目標を立てるべきできでしょう。この際、可能な限り定量的指標を用いることで、事業後の施策の評価及びその改善策が具体化できることが望ましいです。

 計画立案に際しては、各病院が健康保持・増進の取組の全体を俯瞰して、どの主体も取り組んでいない課題がある場合は、各病院が率先して実施できる内容を整理し、必要に応じて健康保険組合などと連携により実施することも考えられます。また、健康保険組合や病院内スタッフでの対応が難しい部分については、外部の事業者を積極的に活用することも考えられます。

 なお、外部の事業者を活用する場合等において、各病院と保険者が保有する従業員個人の健康・医療情報をやり取りするにあたっては、利用目的の達成に必要な範囲に限定されるよう、健康情報を必要に応じて適切に加工したうえで提供する等の措置を講じる等、十分に注意して取り扱う必要があります。

 

 ③ 施策を実行する

 策定した計画に沿い、施策を実行します。

 まず、長時間労働の抑制や、職員の休暇取得の促進など、働き方への配慮を行うなどが考えられます。

 また、従業員個人の生活習慣に問題があれば、生活習慣改善のモチベーションを向上させる取組や行動変容を促進する取組を実施することが必要です。例えば、健康診断の結果、生活習慣病のハイリスク群であると認められる従業員に対し、定期的に電話や面談等による保健指導を行い、生活習慣の改善を促すことや、健康に関する情報提供や運動機会の提供といった取組を通じて従業員全般の意識向上を図ることなどが考えられます。

 

 ④ 健康保険組合等との適切な連携(コラボヘルス)について

 ①~③の実施にあたっては、データヘルス計画の策定・実施等、各病院と健康保険組合等とが適切に連携していくことが重要です。

 この際、各病院と健康保険組合等では取組の目的や優先順位が違うことを踏まえること、また病院、健康保険組合、従業員など等それぞれの役割や現状のそれぞれの取組状況などを整理することが重要です。

 

(4)取組を評価する

 取組の効果を検証する際、現状の取組の評価を、次の取組に生かせるよう、PDCAがしっかりと機能するような体制を構築・維持することが重要です。

 取組の評価にあたっては、ストラクチャー(構造)・プロセス(過程)・アウトカム(成果)の3視点にて健康経営を評価することが重要です。

 

(引用)「企業の『健康経営』ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~

   (改訂第1版) 経済産業省 商務情報政策局ヘルスケア産業課」

 

「健康経営で組織を変える病院の働き方改革WEBセミナー」の
ご案内

 今回のコラムでは、病院の働き方改革を進めるうえで、欠かせない視点である健康経営についてご紹介しましたが、来る9月13日、「健康経営で組織を変える病院の働き方改革WEBセミナー」が開催されます。

 このセミナーでは、佐藤文彦先生(Basical Health産業医事務所代表)に講演していただきますが、佐藤先生は、順天堂大学附属静岡病院糖尿病・内分泌内科科長の当時、「地方病院の医局員たちの残業の多さを何とか改善できないか」と考え、「医師の働き方改革」に着手。コーチングの手法を活用し、現場の要望を聴き出し、それを反映させた組織開発を独自で行われました。

 健康経営を絡ませた人材主体で考えるコーチングが経営改革のヒントになればということで、講演していただきます。どなたでも参加できますので、ぜひご参加ください。

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