今週のコラム第33号「どのような場合に医療機関において宿日直許可が認められるか」(2021年7月27日号)

医師の労働時間の短縮を考えるときに、宿日直の取扱いがひとつの焦点となります。今回は、厚生労働省の資料をもとに、医療機関における宿日直の許可事例と不許可事例をご紹介します。

 

労働基準法では、常態としてほとんど労働することがなく、労働時間規制を適用しなくとも必ずしも労働者保護に欠けることのない宿直又は日直の勤務で断続的な業務(例えば、いわゆる「寝当直」に当たるような業務)については、労働基準監督署長の許可を受けた場合に労働時間規制を適用除外とすることを定めています(宿日直許可)。

 

(注1)対象業務は、①通常の勤務時間から完全に解放された後のものであり、②宿日直中に

   従事する業務は、一般の宿日直業務以外には、特殊な措置を必要としない軽度または

   短時間の業務に限ること、③一般の宿日直の許可の条件を満たしていること、④宿直の

   場合は十分な睡眠がとりうること等の条件を満たしていることが必要です。

(注2)許可が与えられた場合でも、宿日直中に通常の勤務時間と同態様の業務に従事した

   ときは、その時間について割増賃金を支払う必要があります。

 

【申請から宿日直許可までの流れ】

 労働基準監督署に宿日直許可の申請を行ってから許可を受けるまでの流れは、おおむね以下のとおりです。

 

 ① 労働基準監督署に、申請書(様式第10号)(原本2部)及び添付書類を提出

  → 申請対象である宿日直の勤務実態が、上記(注1)の条件を満たしていることを

   書面上で確認します。

    上記(注1)③の一般的な宿日直の許可の条件とは、「1.常態としてほとんど労働

   することがないこと、2.通常の労働の継続ではないこと、3.宿日直手当額が同種の業務

   に従事する労働者の1人1日平均額の3分の1以上であること、4. 宿日直の回数が、

   原則として宿直は週1回、日直は月1回以内であること、5.宿直について相当の睡眠

   設備を設置していること」を意味します。

 ② 労働基準監督官による実地調査

  → 宿日直業務に実際に従事する医師等へのヒアリングや、仮眠スペースの確認等を、

   原則として実地で行い、申請時に提出された書類の内容が事実に即したものかの確認を

   行います。また、勤務実態の確認に必要な期間(個別の申請ごとに異なりますが、おお

   よそ直近数ヶ月間)の勤務記録の提出を求められます。

 ③ ①②の結果、許可相当と認められた場合に宿日直許可がなされ、許可書が交付されます。

 

【申請時に提出が必要な書類例】

 宿日直当番表、宿日直日誌や急患日誌等、宿日直中に従事する業務内容、業務内容ごとの

対応時間が分かる資料(電子カルテのログや急患日誌等を基に作成)、仮眠室等の待機場所が

分かる図面及び写真、宿日直勤務者の賃金一覧表、宿日直手当の算出根拠がわかる就業規則等

(※これらは標準的な例であり、実務上は監督官が調査に必要な範囲で提出を依頼)

 

【医療機関における宿日直の許可事例】

 ※以下の事例は、あくまでも個別の具体的な事例であることから、事例中の態様や数値等と  の異同のみで他の事例の許可・不許可が判断されるものではありません。

 

1.病棟当直 

 (ポイント)「特殊の措置を必要としない軽度の又は短時間の業務」として定期的な

  病棟回診が認められる場合がある。

 ○救急指定の別 指定なし

 ○診療科・部門 精神科、心療内科

 ○病床数 170床   ○労働者数 150人

 ○対象者数等 勤務医1人、他病院からの受入医8人

 ○宿日直勤務時間 宿直(週1回):18時~翌8時45分 日直(月1回):土13時~17時、

  日祝9時~17時

 ○対象業務 非常事態に備えての待機、定期回診

 ○労基署の調査概要 過去3か月間の実情を調査。

  宿直勤務では、約30分の定期回診と入院患者の容体急変に備えた病棟管理。

  回診では、1~3階病室を巡回し、処置の必要な患者は看護師が回診時に案内するが、

  1回2件程度、発熱診察や転倒等による軽傷処置。

  病棟管理では、診察を要する事案の発生頻度は1日最大5件、平均1件程度(1件約32分)。

 

2.ICU、救急 

 (ポイント)救急等でも対象業務が「特殊の措置を必要としない軽度の又は短時間の業務」

  であれば、許可される場合がある。

⑴○救急指定の別 二次救急病院

 ○診療科・部門 内科、小児科、外科、皮膚科、泌尿器科、眼科、耳鼻咽喉科、産婦人科、

  リハビリテーション科、放射線科、麻酔科、救急診療科、病理診断科、精神科

 ○病床数 350床  ○労働者数 900人

 ○対象者数等 勤務医44人

 ○宿日直勤務時間 宿直(週1回):18時~翌9時 日直(月1回):9時~18時

 ○対象業務 ICU(集中治療室)の非常事態に備えての待機、処置確認、呼出対応

 ○労基署の調査概要 最大収容患者数4人のICUにおいて、

  ・1日1回、看護師が実施した投薬等の記録をチェックし、主治医の指示どおりの措置が

   なされていることを確認する「処置確認」(約2分)

  ・月1回程度、看護師から呼出を受け、急変患者の容態を確認し、主治医又は専門医に

   連絡を取るか否かの判断のみを行う「呼出対応」(約20分)

  ・休日・夜間の急患には夜勤医が対応し、宿日直勤務医による対応なし。

 

⑵○救急指定の別 一次救急病院

 ○診療科・部門 内科、リハビリテーション科、放射線科、皮膚科、整形外科

 ○病床数 50床  ○労働者数 80人

 ○対象者数等 他病院からの受入医7人

 ○宿日直勤務時間 宿直(週1回):18時~翌8時30分 

  日直(月2回):9時30分~翌8時30分

 ○対象業務 非常事態に備えての待機、診察

 ○労基署の調査概要 過去1か月間の実績を調査。

  通常の勤務時間と同態様の業務の発生は、1か月間に6回、尻もちの診察(約5分)や

  死亡確認(約10分)等(合計約45分)

  医師2人について、宿直日ごとの間隔が6日以上開いていない週がみられたものの、1か月

  間の宿直回数は4回以下となっており、また、勤務の労働密度が薄いことから、週1回の

  限度を満たしているとして許可。

  宿日直手当額は、17号通達紀2イによることが著しく困難として、賃金構造基本統計調査

  報告の医師の賃金額から算出した日額の3分の1の額を参考に評価。

 

⑶○救急指定の別 二次救急病院

 ○診療科・部門 精神科、神経科、内科、皮膚科、リハビリテーション科、歯科

 ○病床数 380床  ○労働者数 420人

 ○対象者数等 勤務医18人

 ○宿日直勤務時間 宿直(週1回):17時15分~翌8時30分

 ○対象業務 緊急事態に備えての待機、定期回診、検食

 ○労基署の調査概要 過去3か月間の実績を調査。

  輪番日に最大2人の救急患者を受入。輪番日には医師2人、非輪番日には医師1人が宿直。

  病棟を回診し、45人程度の要注意患者を目視確認し、回診結果をデータ入力(約40分)。

  睡眠中の患者が多く、回診時間はわずか。

  宿直日の夕食(約10分)、朝食(約5分)を検食。

  救急患者の受入時の診察等に月平均7件程度。二次救急の輪番日に新規患者の受入の際は

  約2時間要するが、通常の救急外来で通院歴のある患者の受入の際は約1時間。

  入院患者の急変や死亡対応が月平均3件程度(1件約1時間)。

 

【医療機関における宿日直の不許可事例】

 通常業務との分離 

 (ポイント)通常の勤務態様が継続している間は、宿日直の許可の対象にならない。(※)

 ○救急指定の別 二次救急病院

 ○診療科・部門 内科、小児科、外科、皮膚科、産婦人科、泌尿器科、眼科、耳鼻咽喉科、

  歯科、精神科、麻酔科、放射線科、リハビリテーション科、化学療法科、病理診断科

 ○病床数 340床  ○労働者数 490人

 ○対象者数等 勤務医29人

 ○宿日直勤務時間 日直(月1回):14時~17時

 ○対象業務 緊急事態に備えての待機、文書又は電話収受等

 ○労基署の調査概要 過去1か月間の実績を調査。

  救急指定病院として月25日程度、救急患者を受入。

  日直勤務日の14時までは時間外労働として勤務し、14時以降は宿直室に移動して待機。

  ほぼ毎回、14時以降も患者への治療等が複数回発生(合計約30分~2時間)。

  終業時刻に密着して行う短時間の断続的な労働と判断。

 

※ 始業又は終業時刻に密着して行う短時間(おおむね4時間程度未満)の監視又は断続的な

 労働は、日直の業務として許可の対象とならない。(昭和43年4月9日付け基収797号)

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