今週のコラム第28号「医師の自己研さんの一部は労働時間」
(2021年6月8日号)

医師の働き方改革関連法が成立し、医師の年間時間外・休日労働時間数の合計が960時間を超える医療機関は、医師の労働時間短縮計画を作成する必要があります。そこで、悩ましいのが、医師の自己研さんを労働時間とするかどうかです。

今回は、この点について注目すべき裁判例をご紹介します。

 

それは、長崎市立病院機構事件(長崎地判令元・5・27)です。この事件は、亡くなった医師の遺族が、勉強会や文献調査などの時間に割増賃金等を求めましたが、長崎地裁は、個々の業務との関連性を検討したうえで、勉強会の講義や準備時間を労働時間とした一方で、疾患や治療方法の文献調査のうち、担当患者に関する調査は労働時間、それ以外の専門分野は労働時間に該当しないとしています。

 

また、注目すべきは、客観的な記録がなかったことから、病院の滞在時間の9割が労働時間と推認された点です。

 

それでは次に、判決のポイントとコメントをご説明します。

 

① 医師の当直業務について、救急患者が来院するなどした場合には対応を行うことが義務

 づけられ、仮眠時間も含めて当直業務中に労働から離れることが保障されたとはいえず、

 当直業務は、全体として手待ち時間を含む労働時間に該当する。

 

(コメント)労基署からの承認を受ければ、当直時間は時間外労働からはずすことができます

 が、医師の場合、事実上いわゆる寝当直でない限り、労基署の承認を受けることはできない

 と言われています。過去、労基署の承認を受けていたとしても、現在の医師の勤務実態に

 よっては当直時間全体が時間外労働になりますので、ご注意ください。

  時間外労働になるとすると、当直手当だけでは不十分で、割増賃金を支払う必要があり、

 当直時間を含めて医師の時間労働時間数を考える必要があります。

 

② 看護師勉強会の担当を上司から指示され、その内容も通常業務との関連性が認められる

 ことから、労働時間に該当する。

③ 看護専門学校への派遣講義は、病院長の指示により派遣されていたことから、労働時間に

 該当する。

④ 抄読会や学会への参加は、労働時間とは言えない。その他の自己研さんについて、自身の

 担当する患者の疾患や治療法に関する文献の調査は労働時間に該当するが、他方、自身の

 専門分野やこれに関係する文献の調査に関しては、この部分に要した時間を労働時間と

 認めることはできない。

 

(コメント)医師の自己研さんに係る労働時間の考え方については、令和元年7月1日 基発

 0701 第9号労働基準局長通達と同じ内容になっています。上司の明示または黙示の指示の

 有無、業務との関連性がポイントとなります。

  いずれにしても、各医療機関において、医師の自己研さんのうち、労働時間に該当する

 ものと該当しないものの基準を明らかにして、職場内で徹底しておくことが必要です。

 

⑤ 被告病院が、亡くなった医師の滞在時間や、通常業務への従事時間について客観的に記録

 するなどして労務管理をしていなかったことを考慮すれば、ある程度概括的に当該医師の

 労働時間を推認することもやむを得ない。各事情に照らせば、当直業務以外の被告病院に

 滞在していた時間の少なくとも9割は労働時間であった。

⑥ 亡くなった医師が極めて過重な長時間労働を行っていたにもかかわらず、内科医らが

 客観的にどの程度の時間、被告病院に滞在し、労働を行っていたのかについて把握せず、

 自ら申請する時間外労働のみを把握するにとどまり、勤務体制を見直すなどの対策を立てて

 いなかったと認められ、当該医師の労務負担の軽減のための具体的な方策をとらなかった

 ことから、安全配慮義務違反と死亡との間に相当因果関係がある。

 

(コメント)医師の医療機関内の滞在時間や通常業務に従事している時間の把握は、タイム

 カードやICカードなどといった客観的な方法により行う必要があります。医師の時間外労働

 について、自己申告だけで把握していますと、場合によっては、安全配慮義務違反となり、

 損害賠償責任が問われることになりますので、ご注意ください。

 

(参考)労働新聞 令和3年6月14日第3308号 第1172回職場に役立つ最新労働裁判例 

   弁護士 緒方彰人氏

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